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「深夜ラジオ恋物語」 著者:TONY

「はい! こんにちは! 今週もやって参りました、FM調布のお時間です。DJテツヤと」
「アヤコがお届けします。今週もいっぱいお便り届いてますよ。みんなありがとね。気合い入れていくわよ」
「今日は特に元気だね、アヤちゃん。何かいいことでもあったの?」
「んー……ちょっとね。ええと、ラジオネーム『焼き林檎』さん、一四歳女性の方からのお便りです」
 ――アヤさんテツさん、こんにちば。いつも番組楽しみにしています。お二人に質問(というか相談)があります。同じクラスのS君が、最近私に冷たい態度をとるようになったんです。S君とは幼馴染で、今までずっと仲良しだったのに、最近はあまり話さなくなって、一緒に帰ることもなくなりました。何か嫌われるようなことをしたっていう心当たりもなくて、どうしたらいいのかわかりません。どうしたらいいですか?――
「一四歳かぁ。いいよね、青春って感じ」
「急に老けこまないでください。焼き林檎さん、お便りありがとう。テツさんじゃないけど、ちょっと私も遠い目をしちゃいました。結論から言うと、あなたとS君は、もう昔みたいには戻れないかもね」
「え? ちょっとアヤちゃん。それはないんじゃないの?」
「ああ、ごめんね。そういう意味じゃないのよ。私、思うんだけど、S君はあなたのことを嫌ってなんかいないと思うな」
「うんうん、僕もそう思うよ」
「上手くは言えないけど、一四歳って、自分も周りもすごく変化していく時期よね」
「そうそう、体も心もね。学校で『思春期』って言葉習わなかった?」
「そうね、だからあえて原因をあげるなら、『戸惑い』ってことかしら。S君が、あなたに対して抱いていた感情が、今までとは違ったものに変わっていくことへの戸惑いね」
「そうそう、本当は好きなのに、照れ隠しでわざと素っ気ない態度とったり、ちょっかい出してみたりね」
「やっぱりテツさんも経験あります?」
「当たり前だよ。男なんてみんな単純なもんさ」
「女の子にしてみれば、くだらないことにこだわってるなって思っちゃうんですけどね」
「そうなんだよな。本当に当時のことが悔やまれるよ。大好きだったトモコちゃん……あ、名前を出すのはまずいかな? そうだ、Tちゃんだ。Tちゃん」
「遅いですよ、テツさん」
「あはは、けど笑いごとじゃないぞ。S君、もしも君が今このラジオを聴いていたら、明日にでも焼き林檎さんにスライディング土下座しなきゃな」
「スライディングって……女の子はそれやられたら逆に引きますって」
「まあ何にしても、後悔はするなってことさ」
「はい。ちょっとためになるテツヤお兄さんのお話でした。あ、そろそろお別れのお時間ですね。それではリスナーのみなさん、ごきげんよう、さようなら」
 ―一週間後―
「はい! こんにちは! 今週もやって参りました、FM調布のお時間です。DJテツヤと」
「アヤコがお届けします。聞いてくださいよ、テツさん。今週もね、焼き林檎さんからお便りがきてるんです。それじゃ、ご紹介しますね。ラジオネーム『焼き林檎』さん一四歳女性の方からのお便りです」
 ――アヤさんテツさん、こんにちは。先週は私なんかのために真剣に相談に乗っていただいてありがとうございました。ほんの少し、S君がスライディング土下座してくれるかもって期待して学校であいさつしたんですけど、S君はいつもと変わらない態度でした。それで今回も相談があります。私が嫌われていないってことはわかったのですが、今のぎくしゃくした関係をどうにかする方法を教えてほしいです。できればテツさんとアヤさんみたいに気さくに冗談を言い合えるような関係が理想です。前回と同じような相談なのですが、よろしくお願いします――
「はい、焼き林檎さん。ありがとう」
「そしてごめんなさい」
「そうね、テツさんのスライディング土下座はコケちゃったし、前回は結局うやむやで終わっちゃったわね」
「いや、きっとS君はラジオ聴かない子なんだよ」
「はいはい。それで、具体的な方法ってことだけど、テツさんは何か良いアイデアないですか?」
「理想が僕たちかぁ。なかなか難しいよね。この年頃の男女って、つい周りの目とか気にしちゃうし」
「それは男の子だけじゃないですか? 私はそんなことなかったけど」
「え? そうなの? う~ん」
「けど、周りの目が気になるんだったら、二人っきりになればいいんじゃないかしら」
「あ、それはいいね。いっそデートにでも誘ったらどうかな?」
「S君は恥ずかしがるかもしれないけど、うまくいくかもしれないですね」
「問題は場所だな。中学生ってお金ないし、年齢制限っていう絶対の壁があるからね」
「どこへ行かせるつもりですか! 真面目に考えてください」
「ははは、ごめんごめん。ええと、ちょっとハガキ見せてくれる? 焼き林檎さんのお住まいは……東京都三鷹市か。それならこの調布とも近いから、このテツヤお兄さんが調布のオススメのスポットを教えちゃおう」
「スポットって、そんなにたくさんありましたっけ?」
「いやいや、何言ってんのアヤちゃん。あるじゃない、調布には深大寺が」
「ああ、なるほど。縁結びのお寺ですね。でも中学生のデートにお寺ってどうかしら? たしかにお金はかからないかもしれないけど、それよりは今度の多摩川の花火大会とかの方がいいんじゃないですか? 一万発も打ち上げるそうですよ」
「あそこは人込みで逆にデートどころじゃないと思うよ。それに、アヤちゃん深大寺行ったことないでしょ? けっこう広いんだよ。蕎麦も美味いし」
「ふぅん。じゃあ今度行ってみます」
「たしかにお寺だから地味な印象もあるかもしれないけどね。のどかに散歩しながらだからこそ話せることだってあると思うよ。例えば遊園地だって、アトラクションに乗ることよりも並んで待ってる間のお喋りの方が楽しかったりするしさ」
「なんだか珍しくいいこと言ってますね」
「珍しいって何だよ」
「あはは、それじゃ焼き林檎さん、頑張ってくださいね。またお便りお待ちしています。そろそろお別れのお時間ですね。それではリスナーのみなさん、ごきげんよう、さようなら」
 ―さらに一週間後―
「はい! こんにちは! 今週もやって参りました、FM調布のお時間です。DJテツヤと」
「アヤコがお届けします。リスナーのみなさんも待ちわびていたのではないでしょうか。私もです」
「あれ? もしかして今週も?」
「そのまさかなんですね。それじゃ、ご紹介しましょう。ラジオネーム『焼き林檎』さん一四歳女性の方からのお便りです」
 ――アヤさんテツさんこんにちは。このハガキが採用されたら三週連続ですね。なんだか私用で電波を使ってるみたいでごめんなさい。でも送らずにはいられない。わかってくださいこの気持ち。先週も真剣に相談に乗っていただいて本当にありがとうございました。そういうお二人の姿勢に共感するファンはきっと多いと思います。ところでテツさん。例の深大寺ですが、今週S君と一緒に行くことになりました。S君は照れていたみたいですが、実は私もちょっとドキドキしています。今から楽しみです――
「うんうん、やっぱりファンあってこその番組だよね。とっても嬉しく思います」
「焼き林檎さん。頑張ってね! 応援してるよ! そしてこれからもFM調布をよろしくね」
「二人の恋が実るといいねぇ」
「本当にそうですね。焼き林檎さん、来週もお便りお待ちしてます。電波ジャックなんて気にしないでね」
「そうそう、みんなには僕がスライディング土下座しておくからさ」
「そのネタはもういいですって」
「言ったなー。じゃあ残りの時間は僕のとっておきのネタを……」
「あ、もうそろそろお別れの時間ですね。それではリスナーのみなさん、ごきげんよう、さようなら」

TONY(神奈川県大和市/21歳/男性/大学生)

   - 第7回応募作品