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        <title>深大寺短編恋愛小説　深大寺恋物語　公式ブログ</title>
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        <language>ja</language>
        <copyright>Copyright 2010</copyright>
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            <title>＜第5回応募作品＞「ムグンファの思い出」　著者： 波岡　洋</title>
            <description><![CDATA[<p>神代植物公園は、昭和三十六年十月に開園して以来、一年を通じて、様々な花の観賞を楽しむことができる場所である。中でも、特に私が好きなのは「木(む)槿(くげ)」の白だ。夏の花、木槿は、例えば同じ夏の時期に花をつける向日葵(ひまわり)に比べてみれば、主張する態度、要素が極端に少ない。<br />まず、向日葵はご存じの通り植物の中でも有数の背の高さを誇り、花弁(はなびら)の黄色が鮮やかで、何しろ大きな花を太陽に向けて自らを、上へ周囲へと主張する。植物公園内の「一年草園」にも見られるような、一定量の向日葵が植えてある花壇は、さながら、我先に周りから抜きん出ようとする意志の集団であり、自らの背丈と大きさばかりを気にする主張の大群のように、私には見えてしまう。<br />一方、木槿の花は何と言っても可憐である。まず、どこが可憐なのかと言えば、その花弁である。咲いた花弁はどの色も淡く、私の好きな白い品種さえも、その白が淡く見える。花の中心に向かっては、やや遠慮がちなインパクトを醸し出した、これまた淡い紅色の輪の模様が確認される。そして何よりも、木槿という花は、向日葵のように一夏中咲いている花ではない。そこがまた可憐なのである。木槿は、次々に別の花が咲くため、人の目には夏の間、長く開いている花のように見られるかもしれない。しかし、その実態は、丑三つ時とも言える朝の早い時刻、太陽の昇る前に人知れず開花した後、夕方には奥ゆかしくしぼんでしまう、控えめな「一日花」なのである。<br />可憐に咲いた木槿は即ち、一般に短いと称される花の命を、そのまま運命的に背負ってしまった花なのである。</p>
<p>「ソミンさんは、どんな花が好きですか。」 <br />二十年前の夏、調布にある大学に入り立てだった私は、六つ年上で大学院に在籍していた留学生、イ・ソミンさんに、淡い恋心を抱いていた。<br />「私は、この花、『無窮花（ムグンファ）』が大好きです。」<br />初めてのデートで歩く神代植物公園の、どこの入り口からも遠い場所にある「木槿園」に差し掛かったとき、微笑みながら、彼女は、うつむき加減でそういった。<br />「韓国では、ムグンファって言うのですか。この花は。私の発音、合っていますか？」<br />「ケンチャナヨ（＝大丈夫）。」<br />「この花、日本では、ムクゲと呼ぶのです。韓国では「無窮花（ムグンファ）」は、どんな意味があるのですか。」<br />「韓国では、ムグンファは、国の繁栄を意味する花、国の花。国民、みんなから大変好かれています。」<br />「ソミンさん、この花のこと、とても詳しいですね。どうして、ムグンファは、韓国の国の花になったのですか。」<br />「質問ばかりですね。シンちゃんは。」<br />「ごめんなさい。自分が、日本のことも全然説明できないのに、ソミンさんに韓国のこと、聞いてばかりで。」<br />「思い出したら、少しホームシックに、なって来ちゃった。」<br />「ワタシ、変なことばかり聞いて、本当にごめんなさい。」<br />元々早口な私は、当時、ソミンさんと話すとき、わざと、ゆっくりとゆっくりと、はっきりと話をするようにしていた。来日して一年目だというのに非常に流暢に日本語を操る彼女だったが、私は彼女が外国人であることを意識して、できるだけ難しい日本の言葉を使わないつもりで話していた。少なくとも、自分はそういうつもりで話をしていたと思う。わざとらしく、ゆっくりだった私の口調は、もしもその場に他の日本人がいたら、きっと、自分のことをとんでもなく気障(きざ)な男だと思ったことだろう。十九歳の私は当時、彼女の前以外では、自分のことを「ワタシ」と言ったことさえなかったけれど。<br />「お寺の側(そば)の、涼しいところまで行って、座って少し休みませんか。」<br />また知った風な私がそういうと、<br />「はい。」<br />彼女は素直な目を見せながら、優しく応えた。<br />蝉の鳴く木陰の道を、潜(もぐ)るように深大寺門の方に抜けて、私たちは屋外の席でも涼しげな風が通る蕎麦屋「多聞」まで足を運んだ。<br />　　私は、二人で冷たい餡蜜を食べながら、できるだけ彼女を悲しませたり怒らせたりしないように、ムグンファの話の続きができないものかと頭を掻いていた。私は話のつなぎのつもりで、大学のゼミや自分の故郷のこと、東京に来て、一人暮らしを始めて気づいたことなど、やはりわざとらしいほどに自らの口をはっきりと開けながら話した。しかし、何よりも彼女のこと、そして彼女の国のことを知りたかった。<br />「シンちゃん、サークルは、どこに入ろうと思っているのですか？」<br />「シンちゃんはぁ、早口なので、きちんとした発音で、ゆっくりと話ができるようになるため、弁論部に入ろうと思っています。」<br />もはや、ロボットのようになった私の口調に、彼女は、その小さい丸い顔を、もっと小さくしながら笑った。これで良し。<br />「ところで、少し、先ほどのムグンファの質問をしても、構いませんか？」<br />「ケンチャナ、ケンチャナ。」<br />彼女は、朝鮮王朝時代、ムグンファが、朝鮮の高級官僚合格者に対して国王が御賜花として授けていた花であったこと、また、朝鮮国王が出席する宴会では、臣下たちが部屋の隅にムグンファを生けて、それを王と臣とをつなぐ信義のしるしとして扱っていて、そこから国の花として定着するようになったことを話してくれた。<br />「本当に自分の国のこと、ソミンさんは良く勉強しているのですね。感心します。」<br />「シンちゃんだって、外国に行けば、日本のことを話さなくてはならなくなるでしょ。きっとそうなるでしょ。」<br />「確かに、ソミンさんの、おっしゃるとおりだと思います。」<br />　「ムグンファは、韓国が、いえ朝鮮の残してきた時代が、そのまま感じられる花だと思います。」<br />「といいますと？」<br />「ムグンファは、無に窮(きゅう)する花と書くの。それは、日本語で考えても同じ意味。無に窮する、何も無いことに困るくらいのたくましさを持っているわけ。ムグンファは朝早く花を開いて、開いた花は午後にはしぼみ、日が暮れると落ちてしまいます。毎日毎日、夏の間、それは咲いては散る花なのだけれど、夏から秋まで百日もの間、途切れることなく次々と咲く花なの。一つの花の花びらは一日だけで、その花自体は無くなってしまうのだけれども、次々に咲いてくるから、ムグンファの種(しゅ)は死んではいないの。力強く種が続くことが判るわけ。それが私たち朝鮮民族の歴史と重なっていると思います。」<br />後から聞いた話だが、無窮花は本当に非常に強い花で、枝を切って地面に刺しておくと、いつの間にか根づくらしい。それくらい、その生命力は強い。<br />「だから、韓国人は、日本人より強いのよ。」<br />「きっと、そうだと思います。ソミンさんを見ていると、そう思います。」<br />彼女は、日本から日本の奨学金で招聘された国費留学生だった。受験競争の激しいソウルの学生時代を優秀な成績で過ごし、狭き門を通り抜けて日本までやってきていた。日本の地方で平々凡々と生活してきた自分の何倍も努力をしてきたことだろう。その証拠が、自国のことを異国の言葉でしっかりと説明できる話力に現れている。<br />「シンちゃん。だから、シンちゃんとは、もうこれっきり。私は、日本では好きな人は作らないことに決めているから。」<br />最初のデートの中盤で、私の東京での初めての恋は、幕が閉じられてしまった。まだ、追うことができないわけでもなかったが、ムグンファの散り際の潔さを考えれば、これはスパッと断念するのが心地よい。<br />「ソミンさんという、可憐な人に出会えただけでも、自分は幸せです。スッパリとあきらめます。」<br />そのとき、初めて彼女に対して、何の意識もせずに自分の使いたい日本語が使えたような気がした。<br />「ソミンさん、最後に、もう一つだけ質問させて下さい。ソミンさんの嫌いな花はありますか。」<br />「そう、嫌いな花、嫌いなのは紫陽花(あじさい)。だから、シンちゃんには紫陽花にはならないで欲しい。」<br />「難しいですね。どういう意味ですか。」<br />「全然難しくない。紫陽花は日本では雨の日に綺麗に咲く花だけど、それだからかもしれないけれど、冷たい花なの。紫陽花の花言葉、『冷淡』だって、知らなかったでしょ。」<br />「全く、存じ上げませんでした。」<br />「シンちゃんは、私のことを気にして、一生懸命に簡単な日本語で話をしようとしてくれていた。そのこと、良く分かります。そんなシンちゃんには、これからも紫陽花にはなって欲しくないの。」<br />彼女は私のことを、全部判っていた。そのことが改めて彼女への恋心を断ち切るに当たっての障害になってしまいそうで、自分は俯(うつむ)いてしまった。<br />木槿の花言葉は「信念」だという。彼女は翌年の春、電子工学の博士課程を卒業した。今、祖国で大学教授となって最先端のエンジニアリングのアドバイスを企業に行う職務に就いているという。結婚しているかどうかは知らないが、きっと幸せに違いない。</p>
<p>---------------------------------------------------------------- <br />　 <br />＜著者紹介＞ <br />波岡　洋（東京都小金井市／39歳／男性／公務員）</p>]]></description>
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                <category domain="http://www.sixapart.com/ns/types#category">36_第5回応募作品紹介</category>
            
            
            <pubDate>Tue, 16 Mar 2010 16:15:36 +0900</pubDate>
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        <item>
            <title>＜第5回応募作品＞「蓮の花が咲くとき」　著者：  望月　吾妻</title>
            <description><![CDATA[<p>　成田空港からのリムジンバス直行便は、香織の実家がある調布に向かっていた。朝からやる気満々に昇った盛夏の太陽が、左側の景色を鏡のように反射させている。香織は車窓に流れる景色をぼんやり眺めていた。田園風景はやがて住宅密集地に変わり、次第に高層ビルやタワーマンションの数を増やしていった。首都高速を滞ることなく進んでいるから、昼頃には予定どおり着くだろう。駅には父が迎えに来てくれているはずだ。</p>
<p>香織は滝沢家の長女として調布市佐須町に生まれた。地元でも知られた旧家である滝沢家は、代々農業を営み、周辺に相当な土地を所有している。祖父の代から資産活用の都合で建築業も始めたが、今でも庭先では点在して残る畑で収穫された野菜を売っている。広い敷地に建つ緑に囲まれた実家は野川の近くにあり、香織は閑静な住宅街の、自然豊かな恵まれた環境の中でおおらかに育った。<br />柏野小学校から第七中と地元の公立を進み、高校は都立三鷹高校に学んだ。近隣の裕福な家庭では小中学校から私立に行かせるケースが多いのだが、郷土意識の高い父はあえて公立にこだわり、香織は素直にその意に従った。<br />外国語大学を卒業後、外資系企業に就職し、天王洲のオフィスに勤務した。仕事にも慣れた二年後、本社があるシアトルへ異動の内示をもらった。研修を兼ねた期間限定の海外転勤だったが、両親は猛反対した。しかし、親元を離れ、一人暮らしの機会を自ら申告していた香織は、これに屈せず、単身アメリカに渡った。従順だった大事な一人娘が家を出て、しかも遠い異国に行ってしまったことに強いショックを受け、頑丈が取柄の父は数日間寝込んだという。母はすぐに、自分のやりたいことに邁進する娘の成長を喜び、子どもの親離れを内心では頼もしく思ってくれた。が、それでも父の心配と虚脱を察して、母からの国際電話やメールはほぼ毎日のようにあった。<br />あれから約一年半。仕事と休暇と祖母の七回忌がちょうど重なり、二週間余りの、初めての帰国となった。</p>
<p>家族やご近所、同級生などの歓迎攻めと仕事の処理などで、当初の昼食と夕食は友人や同僚と共にする日が続いた。早送りの映像のように慌しく多忙な数日が去り、ようやく休暇らしい落ち着いた時間を取り戻した香織は、母の手料理を味わい、実家で家族とのんびり過ごすことに専念した。<br />ある日は、弟のマウンテンバイクを借りて、市内をゆっくり散策した。<br />大きな空の下、開かれた視界の先に、おもちゃのような飛行機が離着陸する調布飛行場があった。飛田給のスタジアムでは、なでしこリーグの女子サッカーの試合が開催されていた。多摩川に出ると、河川敷の球場で少年野球の熱戦がくり広がられていた。サイクリングロードを下り、市のテニスコートがある堰の辺りからは、多摩丘陵の遊園地に立つ観覧車の奥に、うっすらと蒼い輪郭を描く富士山が見えた。街には新しいマンションや戸建てが増え、馴染みの店の入れ替わりもあったが、街の風景はほとんどそのままだった。<br />春になれば、多摩川住宅沿いの土手や野川の両岸に美しい桜が咲き、夏になれば、市民プールに子どもたちの歓声が響き、秋には高尾山の方角に大きな陽が落ちて、調布の空を夕焼けに染め、冬になると、雪やスキー板を載せた車両が中央高速道を行き交うのだろう。<br />些細な変化を探して嘆くよりも、変わらぬ大きなものを確認して安心したい。香織はそんな心境になって生まれ育った調布の街と接していた。それは、懐古や郷愁といった感傷ではなく、今の自分の土台を作ってくれた場所が、たった数年で脆弱に変容してほしくない敬愛のようなものといえる。</p>
<p>　帰国して一週間が経った日、伯母から電話があった。伯母は活発かつ豪快な自由人で、若かりし頃のかなりのお転婆ぶりには父も随分手を焼いたらしい。今は祖父から相続した調布ヶ丘の家に住み、空いている部屋を貸して悠々自適に暮らしている。その下宿に、最近、電気通信大学に通う一人のアメリカ人留学生が住み始めたそうだ。<br />　「深大寺に行きたいと言っているが、私はもう若い人と同じに歩けないし、英語で案内できないから、あなた、代わりに付き合ってあげてくれない」。そういう用件だった。香織のアメリカ行きで滝沢家が大騒動になった時、伯母は加勢し、熱心に後押ししてくれた。その恩義もあって断れない。<br />だが、香織にとって、深大寺は鬼門だった。幼稚園の遠足で神代植物公園に行った時、バラ園で蜂に刺され、頭が漫画のように腫れ上がった。小学生の時、水生植物園で遊んでいたら、誤って池に落ち、溺れそうになった。中学の時、バスケットボール部だった香織は深大寺に隣接する総合体育館で試合に出場し、対戦相手のロングパスを阻止しようとして、ボールを顔面で受け、そのまま真後ろに倒れ気を失った。最悪なのは高校の時だった。初めて同級生とデートを約束し、深大寺に行った。山門をくぐり、本堂や元三大師堂、深沙大王堂などを参拝し、門前を散歩した。ここまではいい感じだった。名物のお蕎麦を食べようと店に入り、蕎麦をたぐった時、悲劇は起きた。不吉な予感と初デートの緊張の余り、蕎麦を中途半端にすすって、むせてしまい、激しく咳き込んだら、蕎麦が一本、鼻から出てきてしまった。以来、香織は一切、深大寺およびその周辺には立ち入っていない。毎年、家族で初詣に行っていたが、それも拒絶した。「何が縁結びよ」。同時に、その日から香織は恋愛にも臆病になった。<br />　なのに、初対面の留学生を連れ、深大寺を案内しなければいけない。困った。憂鬱で体が岩のように重たくなった。<br />次の日。伯母は留学生とともに現れた。彼の名はパトリック。本人の発音が伯母には「ハットリ君」と聞こえるらしく、伯母はハットリ君と呼んでいた。パトリックは何度も訂正したそうだが、もう諦めたと言った。気さくで明るい大きな好青年だった。</p>
<p>「何も起こりませんように」と香織はひたすら祈った。<br />二人はまず野草園へ出発した。ここは中央道を挟んだ東南の深大寺自然広場にあり、小さい頃、蛍を観に行った公園だ。周辺は自然のままの鬱蒼とした湿地帯になっている。<br />深大寺へと続く急な坂を登り、中央道に架かる歩道橋を渡り、住宅地を抜け、三鷹通りに出て青渭神社に着いた。パトリックに参拝の方法を教え、深大寺の本堂の裏をめぐる路を歩き、神代植物公園を見学し、自由広場で休憩した。武蔵野の原生林が時空を超えて残り、大きな樹木の葉が幾重にも覆い真夏の陽光を遮っていた。時折、心地よい風が吹き抜けていく。蝉の鳴き声も元気だ。<br />少し汗が治まった頃、武蔵境通りの近くを迂回し、深沙の杜から深大寺へと向かった。深大寺は以前と変わらず賑わっていた。日本の自然･伝統文化･歴史に興味関心がいっぱいのパトリックは、道中、「素晴らしい！」を大袈裟に連発している。地元を褒められることが、あたかも自分が褒められているようで、うれしく誇らしかった。　<br />ただ難儀なのは、いろんな質問を浴びせられることだった。シアトルでも日本について、あれこれ聞かれるが、どれも基本的な話題で返答は容易かった。しかし、来日するほどの親日家であるハットリ君は知識も豊富で、そのうえでの質問だから、じつに手強く厄介だ。「深大寺と神代は同じ発音なのに、なぜ異なる漢字なのか」。「万霊塔とは何か」。等々。<br />英語が話せることと、話せる中身を持っていることは全然違う。語学ができても、話せる教養がなくては意味がない。忌み嫌っていた深大寺のことだとしても、自分の引き出しの空っぽさに香織は恥じ入った。<br />門前のお蕎麦屋さんで食事をした時も、パトリックの好奇心に充ちた質問は続いた。香織は答えに窮し、下を向いて黙った。その様子を見て、横の席の男性客がさりげなく間に入ってくれた。パトリックの知りたい疑問に的確に答え、それを英語でわかりやすく説明した。流暢な英語ではなかったが、内容は充実していた。三人の会話は弾んだ。<br />親切な男性の博識のおかげで、パトリックの深大寺ガイドは無事に終わった。帰り際、彼は香織に名刺を差し出し、自己紹介した。名前は渡部和哉とあった。深大寺の近くにある国立天文台で観測や研究の機器開発に携わる技術職員で調布駅に近い布田に住んでいるという。年齢は香織の1つ下。独身なので休日にはよく一人で深大寺近辺を訪ね、蕎麦を食べ歩いていると笑った。<br />　香織は胸の奥深くで発熱するのを感じた。パトリックに感じた友情のような親近感とはまったく別の微熱だった。<br />夏の朝、水面を出た蓮の花は、突然、ポッと音を立てて咲くという。<br />夜、滝沢家で夕食を囲み、パトリックは満足気に伯母と帰って行った。楽しく有意義に過ごした濃厚な一日だった。香織は、深大寺を見直し、愛着をもった。不運続きだったが、ほんとは元々好きだったのかもしれない。</p>
<p>香織がシアトルに戻る前々日、祖母の七回忌が行なわれた。集まった親戚は口々に香織の結婚を話題にした。笑顔でかわしつつも、そろそろ封印を解いてもいい時期かと香織は思い始めていた。翌日。その第一歩になるかもしれない電話を渡部にかけた。<br />恋愛は不思議な引力をもつ。どんなに遠くに離れていても、縁ある男女は運命の糸に操り寄せられ、いつか出会い結ばれる。</p>
<p>---------------------------------------------------------------- <br />　 <br />＜著者紹介＞ <br />望月　吾妻（東京都調布市／53歳／男性／自営業）</p>]]></description>
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                <category domain="http://www.sixapart.com/ns/types#category">36_第5回応募作品紹介</category>
            
            
            <pubDate>Fri, 05 Mar 2010 16:57:19 +0900</pubDate>
        </item>
        
        <item>
            <title>＜第5回応募作品＞「見えないバトン」　著者： 杉本　絵理</title>
            <description><![CDATA[<p>約束より結局三十分も早く到着してしまった。深大寺に多く立ち並ぶ蕎麦屋の中でも「市川」は古く小さい。それなのに、念入りに磨かれたような清潔さと、静かな佇まいは二年振りに訪れてもまったく変わっていない。<br />　二年前に父が亡くなるまでは、母と三人でよく訪れた場所だった。大学教授だった父は留守が多かったが、たまの休日に三人そろうと「市川に行くか！」と私たちを誘った。家からたった一駅先だったが、私にとっては小旅行のように楽しみなことだった。<br />店の前に立っていると、古い引き戸が開いて、その奥から蕎麦を食べ終えてお腹一杯の私と両親が笑顔で出てくる光景が瞼に浮かんでくる。父はいつも通り日本酒をちびりちびりと飲み、私はその嬉しそうな父の顔を見ながら酒のつまみに好んだ揚げそばに手を伸ばすことが大好きだった。<br />大学に進学して就職すると、当然に訪れる回数は減ったが、それでも三人で「市川」に行く習慣は不思議と途絶えなかった。<br />父が亡くなった途端、母と二人で来ることさえなくなってしまった。もっと長生きして当然だと思っていた父の早過ぎる死は、驚きとともに残された私たちの生活に色々な影響を及ぼした。それは死に対する悲しみより、現実的な重量感があった。母との関係もそうだった。父が亡くなっても元通りの関係には戻らず、それは三人いての二人と、本当に二人しかいなくなったことがまったく違うという現実だった。それにイラついて恋人の雅人に八つ当たりが増えると、その関係までもが悪くなっていった。<br />　思わず、小さな店の前から尻込みしたい気持ちになるが、しっかり背筋を正した。父が亡くなってからの二年、理解不能な母の行動に、ようやく答えを見出せる日が今日なのだ。<br />「とりあえず」と、心のざわめきを落ち着かせるように言葉に出すと、深大寺まで参拝に行こうとＵターンした。気もそぞろな三十分をここで過ごすには、あまりに時間が長すぎる。もう一度背筋を真っ直ぐに正した。</p>
<p>一週間前の土曜日の電話は、一人の夕飯を終えたタイミングだった。電話の音ですぐに相手は分かった。見ていたようなタイミングでの電話はいつも母からだった。<br />「お母さん？」<br />「違っていたらどうするの？」<br />　電話口で笑う声はやはり母だった。<br />　思わず電話先の相手に聞こえるようにため息をついた。それを無視するように母は、<br />「ねえ、来週の土曜は休み？市川にお蕎麦を食べに行かない？話があるの」<br />口には出さなかったが「きた！」という心境だった。黙っている私に、<br />「雅人さんとデート？仲良くしている？」 <br />きっと雅人は、最近妙に続く休日出勤だと言いかけてぐっと抑えた。来週正午の待ち合わせを決めると、何度目かのため息が出た。<br />理解に苦しむ母の行動の最初は、父が亡くなった一カ月後だった。急に家を売って私とも別居することを提案したかと思うと、実行に移す勢いはすごかった。さらにそのあと二回引っ越しを繰り返した。二回目は私も知らないうちに、数回転送される郵便物でようやく母の住所が変わったことに気付く始末だった。今は深大寺から徒歩十分程度のマンションに暮らしている。<br />それでも、私は基本的に何も聞かずに母の言う通りにした。どうしてと母を問いただすことで、母までも失いたくなかった。二人でもめるより、別居を言い出した母に従って、休日に一人で荷物をまとめ、会社に近いところにアパートを見つける方が余程楽だった。<br />何の相談もしてくれなくなった母への疑問と、責める気持ちは常につきまとうようになり、たまに会っても気まずさとわざとらしい気遣いばかりが表に出た。<br />こんなことになった原因を一つ一つ羅列したことも、夜中に起きて突発的に考え始めることもあった。答えはいつも分からなかった。いずれはと待ちながら、母が何も話してくれない二年が驚くほどあっというまに過ぎた。<br />ふと気付くと、深大寺の前まで来ていた。<br />紫陽花も終わったばかりで人もまばらだが、初夏を待つ緑が瑞々しく目にしみて感じる。<br />　父の病気が分かる数ヶ月前に、顔合わせ程度に雅人を両親に紹介したときは、まだ紫陽花が笑うようにほころんでいた。「市川」で蕎麦を食べたあと、四人で深大寺に参拝した。その晩「結婚はまだ早いよな！」と赤い顔で言う父を見て、母と苦笑した覚えがある。あれから二年交際は続いていたが、休日出勤が理由だけではなくすれ違いが増えていた。<br />なんじゃもんじゃの木の下に立つと、待ち合わせまであと十分になっていた。慌てて引き返そうとしたところで、こちらに来る女性の人影があった。<br />名残惜しそうに深大寺を振り返りながら出てきた母は、私の顔を見ても驚かず、すぐ笑顔になった。<br />「久しぶり」<br />「うん。お母さん早いね」<br />「参拝に寄ったら遅くなって。今から向かうところだったの」<br />　よそよそしい会話に、あんなに仲が良かったのにと唇を噛んでしまう。父が亡くなったことがすべての元凶のように思えてくる。そう思うことが悲しくて、目の奥が熱くなった。　<br />母が私の表情を見守りながら、意を決したように手にした紙袋を見せた。<br />「ねえ、真結。これを見せようと思ったの」<br />　中には大判のノートが入っていた。新聞や雑誌のスクラップが丁寧にはりつけてある。のぞきこむと、それは賃貸マンションの情報で、それも深大寺周辺の物件ばかりだった。思わず「またか」という思いが頭を過ぎる。<br />「また引っ越すの？」<br />「これ、お父さんがずっとしていたのよ。入院してからも新聞や不動産雑誌を買ってくるようにうるさくて」<br />「お父さんが？家があったのにどうして？」<br />　思わず問いただすような口調になった。<br />「真結は一人っ子だけど嫁に出すんだ。俺ら二人、最後は好きな場所でのんびり暮らすぞって。本当にこの周辺が好きだったのね」<br />　大学教授で頭が固い父は、てっきり私に婿養子でももらえと言うのかと思っていた。だから、長男の雅人との交際にほっこりした顔をしないのだと思いこんでいた。<br />「でも、それとお母さんが私に内緒で引っ越しばかりするのとどう関係があるの？」<br />「だって」<br />　母がちょっと目を斜めにそらした。<br />「お父さん、自分の病気を知る前に、死ぬとは思わずに探していたの。病気が分かってからも、良い物件を調べては私に細かく意見を言って。どういうことか分かる？」<br />　答えになってないと思ったが、黙ってもう一度ゆっくりノートに目を落とした。不動産情報の下に一つ一つコメントが書き込んであった。交通事情に始まって、日当たりや見える花まで丁寧に書き込まれてある。右上がりの見覚えのある字だった。<br />「この字・・・」<br />「雅人さんから真結へラブレターみたいね」<br />「へ？」<br />「これ雅人さんよ。お見舞いに来てくれて、お父さんが不動産情報をはるたびにコピーして、下見に行っては書き込んでくれていたの。いつもお父さん寝たふりだったけど」<br />「でも、お母さんが何の相談もなく勝手に引っ越すことと関係ないじゃない。私一人で寂しかったのよ」<br />「寂しかったのは、真結だけじゃないのよ」<br />冷たいくらいにはっきりした声だった。<br />「雅人さんの書き込みは、お父さんが私一人で住む心配を察して、それを解決していけるコメントで。お父さんが亡くなって一人でこれを見ていたら、色々なところを見てみようって前向きになったの。今のところは五階で、春には植物公園の桜がきれいに見えたのよ」<br />そうだ。母が勝手に引っ越して、置いていかれて、自分だけが寂しい気でいた。母は一人で引っ越しをして、一人で気持ちの後かたづけをしていたのだ。そんなことにも、父が一人残る母を思う気持ちにも、その父を思う雅人の行動にも、二年経つ今まで気が付かなかった。<br />　最後の物件のページの裏の糊が少しはがれかけていた。それを見た瞬間、今までたまっていたものが溢れ出してきた。<br />『雅人くん、わがままな真結を頼む。もし少し余裕があれば、ついでに妻もたのむ』<br />『二人ともおまかせ下さい』<br />母は私が止まっているページを見た途端、声をあげて泣き出した。父が亡くなってから、母が泣くのを見るのは初めてだった。<br />「来年は、雅人さんと桜を見にきて」<br />母が今日一番言いたかったのは、この一言なのかもしれない。<br />　泣き顔を隠すように言った母に、つい最近もケンカをしたことを話してしまった。早く雅人さんのところへ行けという母は、<br />「お蕎麦を食べてからね」<br />と笑った私に呆れ顔を見せた。父が亡くなる前の母らしい顔だった。<br />「だめ！走りなさい」</p>
<p>走りながら、深大寺の神様は怖い顔だぞと、小さい私を震えさせていた父の言葉を思い出した。今なら、それが深沙大王像のことで、いつもは姿を見せないけれど、実は縁結びの神様のことだと分かる。<br />疑っていた私を雅人は怒るだろうか。すごい形相の雅人と深沙大王が一緒になって笑うところを想像してみると、少しだけ笑えた。ずっと見送っている母の視線を受けながら、懸命に走り続けた。</p>
<p>---------------------------------------------------------------- <br />　 <br />＜著者紹介＞ <br />杉本　絵理（富山県富山市／32歳／女性／会社員）</p>]]></description>
            <link>http://novel.chofu.com/2010/02/5-12.html</link>
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                <category domain="http://www.sixapart.com/ns/types#category">36_第5回応募作品紹介</category>
            
            
            <pubDate>Fri, 26 Feb 2010 17:46:55 +0900</pubDate>
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        <item>
            <title>＜第5回応募作品＞「雪月花時最憶君」　著者： 渡邉　伸悟</title>
            <description><![CDATA[<p>深沙大王堂を通り過ぎてしばらく往くと、懐かしい山門が見えた。小さい頃によく遊んだなぁ。道路は舗装されて綺麗になっているし、以前はなかったお店もちらほらと見える。<br />「そりゃ、そうか。もう...八年も経つからな」<br />僕はポツリと呟き、立ち止まって時計を見た。午後八時五四分。約束の時間まであと五分と少し。上出来だ。五月にしては蒸し暑い夜、ふと目を向けると、山門は静かに佇んでいて、その静謐さはまるで、「落ち着きなさい」と僕に告げているようでもあった。そう、確かに僕は緊張している。何しろ八年ぶりなのだから。山門をくぐれば深大寺の本堂で、その隣には今も変わらず「なんじゃもんじゃの木」が雪のように白い花を咲かせているのだろう。そして、手紙に書かれたメッセージが僕の考えた通りなら、きっとあの木の下で、君が待っているはずだ。僕は、八年前のことをふいに思い出した。<br />　転勤族だった父の影響で、中学まで過ごした東京を離れることになった。行き先はイギリス。父や母は海外駐在を出世だと喜んでいたけれど、僕はちっとも嬉しくなかった。友達と離れ離れになるし、いきなり英語だなんて言われても、ピンとこない。それに、由香里のことだって...。<br />　由香里は、幼稚園からずっと一緒の、いわゆる幼馴染みってやつだ。家族ぐるみの付き合いで、どこに行くにも大抵一緒だったように思う。卒業を待たずに渡英すると言われた時、真っ先に考えたのが彼女のことだ。当時はそれが"恋"だなんて思いもよらなかった。だって、好き嫌いよりも近い距離間で僕らは時間を過ごしてきたから。クラスメイトの中には大人びた奴もいて、彼氏だ彼女だと騒いだり、年上の高校生と付き合ったりしていたけど、僕も由香里も、その点はすごく純粋で、恋愛を究極の約束事のように考えていた節がある。<br />「ねぇ、ヒトツバダコって知ってる？」<br />　渡英を目前に控えたある日、深大寺本堂の境内に座って二人で話していると、由香里が聞いてきた。<br />「ヒト...何？」<br />「ヒトツバダコ。ほら、そこの木」<br />言って指差した先には、僕らがなんじゃもんじゃの木と呼んでいる木があった。<br />「なんじゃもんじゃだろ？あれ」<br />「それはニックネーム。正式名称はヒトツバダコなの」<br />　なんだか馬鹿にされているみたいに感じた僕は少しムッとしながら返した。僕がもう海外に行くっていうのに、どうして木の話なんか。<br />「なんじゃもんじゃでいいじゃんか。ってか、それがどうしたんだよ」<br />　由香里は、微笑みながら繰り返した。<br />「今はまだ咲いてないけど、ヒトツバダコの花って、白くてまるで雪みたいだなーって思うことない？昔の人はね、すごく綺麗なものを、雪と月と花に例えて『雪月花時最憶君』、つまり、美しい物を見ている時に、遠くにいる君を思い出します、って歌に詠んだりしたんだよ」<br />　「...イギリスでも、月は見えるけどさ...」<br />　今思えば、僕はなんて馬鹿な返事をしたんだろうと思う。だけど、夕陽が差し込む境内で、少し大人びた話し方をする彼女を隣に見ながら、心の中にいつもと違った感情が芽生えて、それが僕を素直にさせなかった。由香里の笑顔が、すこし曇って、戸惑い、何かを決意した表情に変わった。<br />「...イギリスにも桜は咲くのかな、雪は、降るのかな。私には分からないけど、でも、もしも雪が降ったら、月が綺麗だったら、桜を見つけたら、啓は、私の事思い出してくれる？」<br />　心臓が弾け飛びそうな感覚だった。そして、その瞬間、僕は二つのこと知った。由香里が僕を好きだということ。そして、僕も由香里を好きだということ。<br />「...なぁ、深大寺ってさ、縁結びの寺だって知ってた？」<br />　僕は、出来る限り平静を装って話しかけた。<br />「知ってるよ。深沙大王の話でしょ？」<br />「由香里は本当なんでも知ってるよな。あれはさ、小島に隔離された恋人を、彼氏が亀に乗って迎えに行くって話じゃん？」<br />「うん」<br />「俺はたぶん亀には乗ってこないと思うけど、大学を卒業したらさ、あー...」<br />「何？」<br />「卒業したらさ、迎えに来るよ。だからさ、約束しよう。大学を卒業した年に、このなんじゃもんじゃの木の下で会おうって」<br />「...私ね、啓がいつも羨ましかったの」<br />　突然話が変わって僕は少し困惑した。今、精一杯の勇気を振り絞っているのに。<br />「え？」<br />「だって、啓は五月生まれじゃない？...ヒトツバダコはね、五月に満開になるんだよ。だから、約束して。雪の花を咲かせるこの木の下で、啓の誕生日の夜に、私を迎えに来て」<br />「...あ、あぁ。そっか。いつ会うか決めてなかったら会えないもんな。そうだよな」<br />「そうだよ。もう、いつも啓は抜けてるよね。そういうとこ」<br />そう言った由香里は、いつもの彼女だった。<br />それから一週間後、僕たち家族は、イギリスへ向かって旅立った。<br />　イギリスでの生活は単調に過ぎていった。海外生活と言っても、駐在員とその周辺なんてミニジャパンみたいなもので、僕も学校に通いながら、同じような境遇の他の日本人たちと英語の勉強に励んだ。渡英から四年が経ち、両親は帰国したが、僕は進学していたから、一人で残ることにした。<br />　大学生活は特に刺激のあるものではなかった。コースはどうにもならないほどではなかったし、他の学生のように、毎週末にクラブで踊って、一晩限りの相手を見つけたりするほど人生の刺激に飢えているわけでもなかった。何より、イギリスに来てからというもの、日本にいる時よりも鮮明に、僕は由香里を、その約束を心の中に温めておくことに時間を費やすようになった。<br />「お前、中学生の時の恋愛なんてガキの遊びだろ？相手も忘れてるよ」<br />「ユングだかフロイトだかは、真面目すぎて結婚してから遊び始めたらしいぜ。過去の恋愛に囚われんなよ。出エジプトだって！」<br />多くの友人は、そう僕に言った。勿論、彼女が出来なかったわけじゃない。でも、心の大部分を埋め尽くしていたのは、その相手ではなく相手に重ねた彼女だった。唯一心待ちにしていた彼女からの手紙も、他の女性と関係を持ってしまった罪悪感にさいなまれて返信できなくなり、一人暮らしを始めてから２年と少しで途切れた。<br />　大学も終わりに近づいたある日、フラットに一通の手紙が届いた。差出人も宛先も書いてなかったけれど、その手紙はなぜか僕の心をかき乱した。封を開けると、中には紙が一<br />枚だけ入っていた。<br />『雪月花時最憶君』<br />たった一行、そう書かれた手紙は、僕に八年前の深大寺を思い出させた。君はまだ、憶えていてくれたのか。もうずっと昔に忘れられたとばかり思っていたのに。イギリスにも桜は咲いたし、雪も降った。夏の月はとても明るくて綺麗だった。五月に君に逢いに行こう。きっと君は、そこにいる。<br />　...野良犬が吠えて、僕は我に返った。どのくらいこうしていたのだろう。時計を見ると、午後九時を五分過ぎたところだった。まずい、遅刻だ。高鳴る胸を抑えるように、僕は山門をくぐり、本堂を正面に見ながら、ゆっくりと歩いた。今更ながら、何を君と話せばいいのだろうか、と思う。<br />　なんじゃもんじゃの木は、その枝が広がる範囲いっぱいに、雪を降らせていた。本当に雪みたいだな、と月並みなことを考えながら、僕は君の姿を探した。果たして、君はそこにいた。白いワンピースに薄水色のカーデガンを羽織り、景色に溶けそうなくらい儚く佇んで、じっと僕を見つめていた。<br />　八年ぶりの再会は、しばらくの間、静寂に包まれていた。お互い言うべき言葉を見つけられず、中途半端な距離感のまま立ち尽くしていた。<br />「五分遅刻。相変わらずだね、啓のそういうとこ」<br />　最初に沈黙を破ったのは彼女だった。<br />「あ...、ご、ごめん。でもそれを最初に言うことないだろ、八年ぶりの再会だぜ？」<br />「うん。そうだね。でも、なんだか嬉しくって。あの時と、何も変わってないみたいで」<br />「そうかな。変わっただろ、俺たち。少しはさ」<br />「そうかな。私は、啓って全然変わってないと思うよ。背が伸びたくらいじゃない？」<br />「うるせえな。由香里こそ...」<br />　と、慌てて後に続く言葉を呑みこんだ。「綺麗になった」なんて、恥ずかしくて言えやしない。<br />「何よ？」<br />「なんでもねーよ」<br />「ふーん。ま、いいや。でも...」<br />　由香里が一瞬黙った。そして、あの時の、戸惑いと決意の表情をまた見せる<br />「来てくれて嬉しかった。憶えててくれたんだね」<br />「忘れるわけないだろ。俺が約束したんだぜ、迎えに来るって」<br />　言ってから、なんてことを口にしたんだと後悔したけど、もう遅かった。<br />「うん...。約束したもんね。ありがとね」<br />その時、微笑んだ彼女の、大人びた笑顔を彩るように、風がそっと、雪の花を散らした...。</p>
<p>---------------------------------------------------------------- <br />　 <br />＜著者紹介＞ <br />渡邉　伸悟（福岡県北九州市／25歳／男性／大学院生）</p>]]></description>
            <link>http://novel.chofu.com/2010/02/5-11.html</link>
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                <category domain="http://www.sixapart.com/ns/types#category">36_第5回応募作品紹介</category>
            
            
            <pubDate>Mon, 22 Feb 2010 15:19:14 +0900</pubDate>
        </item>
        
        <item>
            <title>＜第5回応募作品＞「白雪」　著者： 大谷　朝子</title>
            <description><![CDATA[<p>　わたし達は別れる。たぶん、今日を最後に。<br />　二月の終わり、深大寺にはぼたん雪がちらついていた。うっすらと雪が積もり、山門の屋根は白く染まっている。歩を進める度に足跡が水っぽく残って、雪を踏みしめる感覚がする。<br />　ざくざくと響く足音は二つ。わたしの少し前でひろ君が白い地面に足跡を残している。マフラーに埋めた顔の、鼻の頭がうっすらと赤い。<br />　門をくぐると、道の脇に並ぶ葉を落とした木々が雪を纏っていた。色の少ない冬枯れの木は初夏に溢れる緑とは違う趣がある。周りを眺めながらゆっくり歩いていると、道の少し先でひろ君がこちらを振り返って立ち止まっていた。わたしは慌ててひろ君の元へ駆け寄る。<br />　ひろ君はわたしを見て、小さく口を開きかけたけれど、何も言わなかった。そしてまたすぐ、わたしに背を向けて歩き始める。わたしは、なんとなく、隣を歩くことも、遅くてごめんと声をかけることも、できなかった。</p>
<p>　きっかけは、青いテスト用紙だった。高一の期末テストの日に、わたしは筆箱を忘れてしまった。その時席が隣だったひろ君が、二つ持っているからと、シャーペンと消しゴムを貸してくれたのだ。でもテストが終わった時にちらっと見たら、ひろ君の答案は真っ青だった。本当は消しゴムもシャーペンも一つしかなくて、ひろ君は青いボールペンで答えを書いたのだ。わたしはその時、青いテスト用紙に、恋をしてしまった。<br />　ひろ君に告白されたのは、高二の初夏のことだ。公園のベンチでとりとめのない話をしながら、ひろ君が切り出すのを、わたしは二時間も待った。遠くで遊んでいた子供の、水色のワンピースをわたしは今でも覚えている。<br />　新緑が青々と茂る深大寺は、付き合って初めて二人で行ったところだ。まだ恥ずかしくて、距離を置いたままぽつりぽつりと言葉を交わすだけだった。わたし達は手をつなぐのに二ヶ月もかかったのだ。でも、二人でいることが嬉しくてたまらなかった。<br />　あの時の距離と、今、わたし達を隔てる距離は途方もなく違う。わたしはひろ君の背中を追いながらぼんやり思った。ひとひら、ふたひら、舞い落ちるぼたん雪は音もなく積もっていく。<br />　<br />　「茜」　<br />　わたしの名前を呼ぶ、ひろ君の声が好きだ。だから、ひろ君が戻ってきたことに気付かないふりをして、名前を呼ばれるのを待った。<br />　「これ、お茶」<br />　ひろ君はわたしにペットボトルの熱いお茶を手渡した。手袋の中からでも熱が伝わってくる。<br />　「ありがとう」<br />わたしは笑って言ったけれど、ひろ君はすぐに目を逸らした。また何か言おうとしてやめる。白い吐息が微かに漏れた。<br />　「あの、鐘みたいのなんだろうね」<br />　わたしは屋根の下にある大きな鐘を指差して言った。<br />　「さあ。鐘じゃない」<br />　ひろ君はそっけなく返す。二人してしばらく鐘みたいなものを眺めていたけれど、今度はわたしがすたすたと歩き出した。ひろ君は隣には並ばず、少し後からついてくる。<br />　微妙な距離を保ったまま、無言で歩き続けていたら、「別に」という、ひろ君のそっけない言葉を、ふと思い出した。クラスメートの男子に、わたしの事を好きなんだろう茶化されて、ひろ君は「別に」と言ったそうだ。<br />　ごめん。おれ、浪人するから、別れようか。夜の公園でそう言われたとき、わたしは頭が真っ白になった。ごめん、会えなくなるし、茜は別れた方がいいよね。しんと静かな闇の中で白い吐息が揺れていた。真っ白な頭に浮かんだのは、青いテスト用紙でも、水色のワンピースでも、初夏の緑溢れる深大寺でもなく、「別に」という色のない言葉だった。その言葉が照れ隠しだということくらい、わかっていたのに、わたしは思わず頷いてしまったのだ。<br />　最後のデートの場所に、ひろ君は深大寺を選んだ。初めてのデートと同じ場所を。その意図がわたしにはわからないけれど、だからわたしは今こうして深大寺に来ている。それで、わたし達は別れる。たぶん、今日を最後に。<br />　わたしは先ほどのひろ君と同じように何も言わずすたすたと歩いた。雪を踏みしめる感覚が少し心地いい。<br />　「茜」<br />　ふいに名前を呼ばれ、わたしは少し驚いて振り返った。ひろ君が真っ直ぐにわたしを見ている。<br />　「どこ行くの？本堂、こっちだよ」<br />　ひろ君は少し笑いながら、目の前の大きな建物を指差した。わたしの足跡は本堂とは別の場所へ向かおうとしている。<br />　「あ、ごめん」<br />　わたしが俯いて言うと、ひろ君はわたしの隣に並んだ。そして小さな声で、行こう、とわたしを促した。<br />　わたし達は屋根のあるところまで、雪の薄く積もった階段をのぼる。息が白く染まって、音もなく消えた。階段をのぼりきると、それぞれ傘を閉じる。溶けた雪がぽたぽたと傘から滴り落ちた。<br />　「寒いね」<br />　なんとなくわたしが言うと、ひろ君は頷き、顔を埋めていたマフラーをほどき始めた。<br />　「マフラー、巻きなよ」<br />　そしてマフラーをわたしの首元に巻こうとする。毛糸のふわりとやわらかい感触がした。<br />　「いいよ、大丈夫」<br />　わたしが慌てて言っても、ひろ君は聞かない。わざわざ手袋を取って、丁寧にマフラーをぐるぐると巻いてくれる。ひろ君の鼻は真っ赤で、手も微かに震えていた。ふいに、骨ばって男らしいひろ君の手が一瞬、頬に触れた。<br />　手をつなぎたい。わたしは、自分でも驚くほど強く、そう思った。ひろ君の手に触れたい。どうしても触れたい。押さえ込んで蓋をしていた感情がどっと溢れ出す。<br />　わたし、ひろ君と、別れたくない。<br />　「できた」と、ひろ君は微笑みながら、マフラーから手を離す。かじかんで少し赤くなった手が視界の端で見える。マフラーの巻かれたわたしの首元は、泣きたいくらい暖かかった。しんしんと雪が降り続けている。<br />　「お参りしよう」<br />　ひろ君はそう言って、段差を一段上がった。わたしもひろ君の後に続く。財布を開けて、小銭を取り出した。勢いよく投げると、賽銭箱の奥へと滑り落ちていった。<br />　お参りと言っても何を願えばいいんだろう。<br />願うことなんかひとつしかないのに、もうひろ君の隣にはいられないんだ。<br />　それでも、わたし達は隣り合って手を合わせた。目を瞑ると、余計にひろ君が隣にいる気配を強く感じる。<br />　「おれ、よくここ来るんだ」<br />　ふいにひろ君が言った。わたしは小さく相槌を打つ。そうなんだ。<br />　「深大寺って、縁結びの伝説があるんだよ。だから、茜に告白する前とかお参りしたし、付き合えた時も、上手くいきますようにって、茜をここに連れて来たんだ」<br />　ひろ君は一息にそう言った。<br />　「だから今日も、ここに来れば上手くいくかなって」<br />　そこで言葉を切った。真剣な瞳が真っ直ぐにわたしを見ている。<br />　「おれ、別れようなんて言ったけど、その方が茜の為になるかと思ったけど」<br />　ひろ君の言葉をかみ締めようとすると心臓が驚くくらい早鐘を打つ。<br />　「やっぱり、おれ、続けたい」<br />　鼻の奥がつんと痛くなって、涙が浮かぶのを感じる。そうだ、そうだった。ひろ君はいつも、大事なことをするのに時間がかかるんだ。そしてわたしはいつも、受身ばかりで、本当のことを言えずにいる。<br />　「ひろ君」<br />　わたしはひとつ息を吸った。声が少し震えてしまうのがわかる。そうして、一息で言った。<br />　「わたし、ひろ君が好き。わたしもひろ君と、別れたくない」<br />　ひろ君ははじかれたようにわたしを見た。信じられない、というような顔をして、すぐに安堵の表情が顔中に広がった。ため息を大きく吐くと、白く染まって広がった。<br />　「よかった」<br />　小さく呟いたひろ君の手を、わたしは握った。ひろ君の手はやっぱり冷たくて、少し乾燥している。わたしよりも大きい手のひらを暖めてあげるために両手で包み込むようにした。ひろ君は何も言わずにそうするわたしの顔をじっと見ている。<br />　やがてわたしはひろ君の手を引いた。<br />　「行こう」<br />　わたし達は本堂の階段を手をつないだまま降りた。そこから見える景色は雪で白く染まっていて、ところどころに木々の茶や傘の色が見える。わたしはその景色を、一生忘れないだろうと思った。色が少ない寂しい景色で、なんだか寒々しくて、でも、驚くくらい、きれいだった。</p>
<p>---------------------------------------------------------------- <br />　 <br />＜著者紹介＞ <br />大谷　朝子（千葉県浦安市／19歳／女性／学生）</p>]]></description>
            <link>http://novel.chofu.com/2010/02/5-10.html</link>
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                <category domain="http://www.sixapart.com/ns/types#category">36_第5回応募作品紹介</category>
            
            
            <pubDate>Fri, 12 Feb 2010 13:33:27 +0900</pubDate>
        </item>
        
        <item>
            <title>＜第5回応募作品＞「手をつなごう」　著者： 前山　尚士</title>
            <description><![CDATA[<p>海水浴に行ったとき、浜辺で寝そべって日焼けするのを『こうらぼし』って言うけれど、サンオイルの代わりに体中にコーラを塗って焼くことだってずっと思ってた。<br />今、深大寺の池の真ん中に突き出た切り株に、数匹の亀が折り重なるようにして群がって日光浴しているのを見て、それが『甲羅干し』だということを始めて悟った。<br />この大発見をあかりにも教えてやろうと思って言ったら、ひと言<br />「あんたって、昔っから馬鹿だよね」<br />と、呆れられた。<br />「馬鹿なこと言ってないで、さっさと絵描きなさいよ。夏休みの宿題終わらないでしょ」<br />「おまえウチのおふくろみたいだな」<br />「あんたにおまえなんて呼ばれる筋合いはありません。私にはちゃんと『あかりちゃん』って可愛い名前があるんだから」<br />「だったら、俺だってあんた呼ばわりされる覚えはないよ。都知事と同じ『慎太郎』って立派な名前があるんだから」<br />「名前負けね」<br />いつの頃からだろう。小さい頃はお互いに『あーちゃん』『慎ちゃん』って呼び合っていたのに。中学生になった今じゃ『あんた』『おまえ』なんて呼ぶようになってしまった。で、毎回同じ議論を重ねて結局は『あかり』『慎太郎』って名前を呼ぶことに落ち着く。幼馴染っていうのはこんなもんだろうか。<br />「でもさ、今更なんで深大寺でスケッチなわけ？他にもいいところあるでしょ」<br />「近いからに決まってるじゃん。それに」<br />「それに？」<br />それに、深大寺に奉られているのが縁結びの神様だからと言えるわけがない。<br />「いや、なんでもない」<br />「変なの。ま、いいけどさ。深大寺久しぶりだし。丁度スケッチもしたかったから」<br />「だろ？近いと逆に足が遠のくからさ。新鮮でいい絵が描けるよ」<br />なんとかごまかせたみたいだ。<br />とどのつまり僕はあかりに惚れているらしいのだ。らしいって言うのは自分でも実はよくわかっていないからだ。あかりのことを急に意識しだしたのは、２年のクラス替えで同じクラスになってからだ。１年のときは別々のクラスだったから挨拶を交わすぐらいだったけれど、同じクラスになって毎日顔を合わすようになると、なんだか段々とあかりがまぶしくなってきたのだ。洒落じゃなくて。<br />あかりにしてもまんざらじゃないらしいのは、態度を見ていればわかる。わかるような気がする。いや、そう思いたい。<br />このままずっと幼馴染のままか、彼女にクラスチェンジするかはわからないけれど、今日はもやもやした僕の気持ちと、あかりの気持ちを白黒つけるべく、僕はある計画を立てていた。題して『深大寺で手をつなごう大作戦』である。これを遂行すべく僕は美術部のあかりに夏休みの宿題の絵を見てもらうという口実をつけて、深大寺まで連れ出したのだ。<br />が、元来の凝り性が災いした。僕は、スケッチに夢中になって、下書きがようやく形になった頃には、太陽は既にてっぺんまで来ていた。続きは腹ごしらえをしてからにして、僕らは深大寺名物のそばを食べることにした。<br />坂道を登って植物園の裏にあるそば屋に入ると僕らは屋外にある木陰の席に陣取った。<br />しばしの間おしながきとにらめっこして、あかりは十割そば、僕はニ八そばを注文した。<br />「やっぱ深大寺に来たら、そば食べなきゃね」<br />「十割そばっていい香り。慎太郎も十割そばにすればよかったのに」<br />「てやんでい！江戸っ子はニ八と相場が決まってるんでい！」<br />「あんた多摩っ子じゃない」<br />「ニ八の方がのどごしがいいんだよ」<br />「ニ八そばってことはさ、おそばが２００ｇとして１６０ｇがそば粉で残りが小麦粉でしょ？４０ｇも損してるじゃない」<br />「それぐらいの計算できるさ。これでも期末の数学９７点だったんだぜ」<br />「慎太郎、昔っから算数得意だったもんね」<br />「あかりは数学何点だったのさ」<br />「何点でもいいでしょ！」<br />僕はあかりが数学が苦手なのを知っていた。知っていてわざと聞いてみた。好きな子に意地悪したいっていうアレだ。<br />ちょっぴり気まずくなった僕らはしばらく無言でそばをすすった。<br />「慎太郎さ、高校ってもう決めた？」<br />「いや、まだ決めてないけど」<br />「やっぱさ、近くの普通科高校がいいよね」<br />「どうだろ。俺、数学が得意だから普通科より理数科の方が向いてるかもね」<br />「遠くの高校に行っちゃうの？」<br />「わかんないけどさ。理数科なら私立の男子校とかでもいいかななんて」<br />「そんなとこ行ったらいっしょな高校に行けないじゃない」<br />「あかりこそ、女子高とか行ったらいっしょにならないじゃん。あかりんとこのおばさん、あかりを自分の母校のお嬢様学校に入れたがってるって聞いたぜ」<br />「女子高なんか行かないよ。女子高なんか」<br />それっきりあかりはうつむいて黙ってそばをすすった。伸ばした前髪が垂れて表情がわからなくなった。ずるずるいう音がそばをすする音なのか、べそをかいたときのはなをすする音なのか僕にはわからなかった。</p>
<p>午後からはスケッチに水彩絵具で色を着けた。照りつける太陽の下、絵具はすぐに水分を失って乾いた。僕はパレットの絵具に何度も水分を補給しなければならなかった。<br />凝り性の僕と絵に関しては妥協を知らない熱血美術部員のあかりの指導のおかげで、絵が完成したときには日は西に傾きかけていた。<br />片付けが終わると僕らはせっかくだから、深大寺の周りの店をひと回りすることにした。なにしろ『深大寺で手をつなごう大作戦』も頓挫したままだったし。<br />「慎太郎、ソフトクリーム食べようよ」<br />「いいね。俺、バニラね」<br />「私、マンゴーにしようっと」<br />僕らはお店のひとにお金を払って、思い思いのソフトクリームを受け取ると、スケッチブックと画材を片手にぶらぶら店を見て歩いた。<br />「やっぱりソフトはバニラに限るな」<br />「マンゴーだって美味しいよ」<br />「シンプルイズベストなの。例えばさ、好きな女の子がいたとして、たまにはマンゴー色も刺激的だけど、やっぱり白がいいわけよ。男としては」<br />「それなんの話？」<br />「パンツ」<br />間髪いれずに、あかりの肘鉄がミゾオチに入った。あまりにもキレイに入ったので一瞬息が止まった。不覚にも手に持っていたソフトクリームをポトリと落としてしまった。<br />「あー、まだ半分以上残っていたのに」<br />「慎太郎が変なこと言うから。ゴメン」<br />「いや、いいよ。俺も悪かったし。それより落としたソフトクリームを片付けなきゃ」<br />僕は近くのお店の人に声をかけて新聞紙を分けて貰った。落ちたソフトクリームのコーンを拾い、石畳についたクリームを新聞紙で拭きとってまるめると、もう一度お店のひとに頼んで捨ててもらった。<br />「これでよしっと。拭き取りきれなかった分はアリさんへのプレゼントってことで」<br />「そういうとこ、慎太郎のいいとこだよね」<br />「性分なだけだよ」<br />「私のマンゴーソフトあげるよ。半分以上落としちゃったでしょ？私はもういいから」<br />「サンキュー。ありがたく貰っておくわ」<br />僕はあかりの食べかけのマンゴーソフトをひと口舐めた。口の中に甘酸っぱいマンゴーの香りが広がった。<br />「これってさ、間接キスだよね」<br />「そんなこと言うなら返せ！」<br />「ムリーッ」<br />僕はマンゴーソフトをいっぺんに口に押し込んだ。コメカミにキーンと痛みが走った。<br />「イテテ。チョー頭イテーッ」<br />「冷たいものをそんな急いで食べるからでしょ。子供なんだから」<br />「返せったって、もう食べちゃったよー」<br />「いいわよ、あげたんだから。食べ終わったんならバス停まで競走よ！ヨーイドン！」<br />「おい、待てよ、あかり」<br />全くどっちが子供なんだかわからない。僕はあかりを追いかけて人のまばらになった石畳の上を走った。バス停の手前にある車止めのところで、僕はようやくあかりに追いついた。<br />「あかり、勝手に競走なんて、ずるいぞ」<br />「か弱い女の子に対するハンデよ。それよりさ、あれ見て」<br />言われるままにあかりが指し示す方を見ると、バス停でおじいさんとおばあさんが仲良く手をつないでバスが来るのを待っていた。<br />「なんか、いいよね。歳をとっても仲良しってさ」<br />「だね」<br />しばらくの間、僕らは仲良し老カップルをながめていた。<br />「あーちゃん」<br />「なに？慎ちゃん」<br />なぜか小さい頃の呼び名であかりを呼んでしまった。同じくあかりも小さい頃の呼び方で答えた。<br />「手つなごうか」<br />僕はおじいさんとおばあさんに視線を向けたまま言った。怖くてあかりの顔を見ることができなかった。けれども、全部の神経は目の端に映るあかりをとらえて離れなかった。<br />「ん・・・」<br />あかりがこくりとうなずいたのが、目の端に映った。<br />西日が僕らのほほをマンゴー色に染めた。</p>
<p><br />前山　尚士（東京都調布市／男性／会社員）</p>]]></description>
            <link>http://novel.chofu.com/2010/02/5-9.html</link>
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                <category domain="http://www.sixapart.com/ns/types#category">36_第5回応募作品紹介</category>
            
            
            <pubDate>Fri, 05 Feb 2010 13:51:03 +0900</pubDate>
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        <item>
            <title>＜第5回応募作品＞「「ジプシーの血」の咲く庭で」　著者： 北　教之</title>
            <description><![CDATA[<p>　このバラの名前はね、ジプシーの血、というのです。<br />　なぜ笑うのかって？面白いわね。あなたに似た方のことを思い出したの。その方も私に同じことを尋ねたわ。このバラの名前はなんというのでしょうか、って。<br />　その方も、バラがとてもお好きでした。本当に、この庭に迷い込んでこられた理由も、あなたとまるで一緒。深大寺を裏手から南に抜けようとして、道を見失ってこのわき道に迷い込んだのです。そう、あなたがいらした植物公園の方からね。<br />　なぜ、ジプシーの血、というのかしらね。この血のように赤い色のせいでしょうか。目に焼きつくようなこの色が、体の中の血と呼応して、彼の地でジプシーがかき鳴らす、すすりなくようなヴァイオリンや、ツィターのメロディーを思い起こさせるのでしょうか。<br />　あの方は、このバラの名前を聞いて、ヨーロッパの音楽家の名前をいくつか口にされました。この縁側に座って、バラを見ながら、「これらは皆、友好国の作曲家ですから、まだ聞くこともできるのです。」と微笑まれて。<br />　そう、あの方と私が出会ったのは、あの戦争の最中のことでした。あの方は航空士官学校の生徒さんで、私はまだ女学校の生徒でした。あんな時代でしたもの、若い殿方と二人きりで庭に座っている姿を見られでもしたら、と、私は気が気でなかったのを覚えています。でもあの方はとてものんびりした方で、そんなことは気にもなさらず、「水を一杯下さいませんか、調布の水はおいしいと聞いているので。」なんて、のんきなことをおっしゃるのです。私は、今にも、家の者が奥から出てきたりしないかしら、と、ひたすらはらはらしていたのを覚えています。<br />　そう、こんなおばあさんにも、殿方に胸ときめかせる青春の頃があったのです。別れ際、あの方は、もう一度、この庭のバラをじっと見つめていらっしゃった。その視線があまりに真剣なので、私は思わず、「一枝、お持ちになりますか？」と尋ねていました。その時のあの方の晴れやかな笑顔で、私は一度に恋に落ちてしまったのです。<br />　とはいえ、お互い名前も名乗らず、素性も知れず、もう二度と会うこともかなうまい、と思っていましたのに、所沢の親戚の家に遊びに行った先で、私は偶然あの方をお見かけしたのです。あの方は所沢の陸軍航空学校にいらっしゃって、その日は水練ということで、狭山湖での訓練に参加されていたのでした。ちょうど私達家族が、湖のほとりを散策している時でした。私達の傍らを、隊列を作って走る制服姿の中に、あの方のお顔を見つけた時、私は本当に息が止まるかと思った。あの方もこちらに気づかれて、かるく会釈を返してくださいました。でもそれだけで、私は本当に天にも昇る心地で、真っ赤に染まった頬を家族のものに気づかれないよう、ずっとうつむいて歩いたのを覚えています。<br />　あの方は航空兵になられるのだ。そう思いました。あの方は空を飛んで海を渡る。狭い狭い操縦席の中で、自分の四囲の全てを風に包まれて、トンボのように儚く、鷲のように雄雄しく、幾千里の彼方まで空を行く。その日から、毎朝私は、朝起きるとまず一番に庭に出て、空を見上げ、両手を広げて目を閉じるようになりました。体中に風を感じたい。あの人と同じ風を感じたい。名前も知らない、ただこの庭で、美しいバラを見ながら、二言三言の言葉を交わしただけのあの方と、この青空で私はつながっている。そう思うだけで、私は幸せでした。<br />　戦局が次第に悪くなり、深大寺の近辺も灯火管制がしかれ、空襲警報の不安なサイレンが鳴り響く日が増えてくると、私の幸せは不安に変わりました。あの方は今、どこで、どんな飛行機に乗っているのだろう。敵の機銃掃射をかいくぐりながら飛ぶのは、どれほど恐ろしいことだろう。どれほど孤独なことだろう。薄い風防ガラスの向こうは、何一つ体を支えるものとてない虚無の空間が広がっている。機銃掃射で機体が打ち抜かれれば、たとえ小さな傷であっても機体はバラバラになる。あの方はそれでも空を飛ぶのだ。死と隣り合わせの危険の中へと飛び立つのだ。ただ、私達を守るために。<br />　あの方がどこに配属されたのか、どこの空を飛んでいるのか、それも全く分からぬまま、私の心は、毎日毎日、不安で締め付けられるようでした。そして、夏が過ぎ、秋をむかえ、再び庭のバラがつぼみを開き始めたころ、あの方は突然、再び、私の庭を訪れたのです。<br />　あの方は立派な航空士官の制服を着て、玄関先で私に向かって背筋を伸ばし、敬礼をされました。私はもう、呆然として涙も出なかった。あの方が覚えていて下さったこと、この日本で、再び会えたこと。その嬉しさよりも何よりも、あの方の厳しい表情が、私の胸を突いたのです。<br />　あの方は、ご自分の名前を名乗り、飛行第２４４戦隊所属の少佐であるとおっしゃいました。以前の非礼をお詫びになり、偶然、調布飛行場に着任したので、どうしても私に頼みたいことがあって来た、とおっしゃいました。<br />　「このバラを一輪、操縦席に飾りたいのです。」あの方はおっしゃいました。「飛燕の操縦席は狭苦しくて、少しでも潤いが欲しくてね。」<br />　そうおっしゃりながら、あの方は、軍人の癖に女々しい男と笑われますか？と、恥ずかしそうに微笑まれました。私は必死に首を横に振りました。首を横に振りながら、私はただ、涙をこらえておりました。なぜあんなに胸が詰まったのか、私にも分からない。私は群れ咲くバラの中から、なるべく長くもちそうな、丈夫なつぼみを選びに選んで、あの方にお渡ししました。心の奥の底の方で、「これは私です」とつぶやきながら。これは私です。私の分身です。私はいつも、あなたの側におります。操縦席のあなたの側にいて、ともに空を飛び、いつでも、どこでも、あなたとご一緒いたしましょう。<br />　その願いが届いたのでしょうか。私は確かに、あの方の最期の瞬間を自分で見ることができたのです。体験することができたのです。あれは本当に、不思議な瞬間でした。<br />　空襲警報が鳴り、私が家族と共に、真っ暗な家の中で小さく震えている時でした。目を閉じた私の周囲で、いきなり風が吹きました。ふわり、と体が浮かび上がったような感覚がして、思わず目を開くと、目の前にあの方がいらっしゃいました。あの方は必死に操縦管を握って、すさまじい風の音が荒れ狂う中を、ひたすらひたすら空高く上っていくのです。その視線の先を追ってみれば、風防ガラスの向こうに見えるのは、禍々しい黒いＢ２９の編隊の影です。あの方は、その影に向かって、ひたすら機体を上昇させていくのです。<br />　飛燕の操縦席の中は、むせるようなバラの香りで、それは私の体から発せられているのです。あの方は一瞬その香りをかいで、小さく微笑まれました。機体のすぐ側で、風とは違う鋭い音がかすめていきます。Ｂ２９が機銃掃射を浴びせ、あの方の飛燕の翼が、激しくバンバン、と音を立てました。翼から燃料が霧のように噴出します。それでも、あの方は微笑んでいました。微笑を浮かべたまま、あの方はご自分の飛燕を旋回させて、そのまま、真っ黒いＢ２９の機体の影の真ん中に突っ込んでいったのです。<br />　その刹那、私の体は、私の家の真ん中に戻っていました。私は思わず、家族が止めるのも聞かず、家の外に飛び出しました。見上げた空に、一機のＢ２９が、真っ赤な炎を上げてゆっくりと落ちていくのが見えたのです。その炎は本当に血の色のように、このバラの花弁のように鮮やかに、私の網膜にくっきりと残像を残してやきついたのです。<br />　考えてみれば、私は、あの方に４度しかお目にかかりませんでした。お言葉を交わしたのはたったの２度。１度は、本当か幻かも分からない夢のような時間の中で。それでもその４度の出会いで、私は自分の生涯の恋を、全て燃やし尽くしてしまったのだと思います。<br />私も年を取りました。この家に住んだ私の家族も全てこの世を去り、あの方のことを覚えているのは、私と、この咲き誇るバラだけとなりました。あなたもバラがお好きなら、ジプシーの血、という名を持つバラをご覧になった時、むかしむかしの若者達の、儚い恋の物語を、思い出してやってくださいまし。バラが好きだった少女と、遠いヨーロッパの音楽が好きだった若者が、この空で燃やした恋の炎の物語を・・・</p>
<p>　・・・老婆が語る物語に耳を傾けていた私が、ふと気づいてみれば、私の傍らに確かにいた、小さな品のいい老婆は姿を消していた。振り返ってみれば、古い、けれど趣味のいい瀟洒な家屋、と見えた家は荒れ果てて、縁側についた私の手のひらは埃にまみれている。はっとして立ち上がってみれば、あれほど豪奢に咲き誇っていたはずの真っ赤なバラは枯れ果てて、茶色く無残な枯れ枝が、雑草の生い茂る庭の中で、初夏の風に揺れているばかり・・・<br />　と、ふと私は、その初夏の風の中に、濃厚なバラの香りを一瞬嗅ぎ取った。でもそれも一瞬のことで、風はそのかすかな香りの記憶を包み込み、一散に青空の彼方へと駆け上っていく。二人の恋が花開いた、遠い成層圏の彼方へと・・・</p>
<p>---------------------------------------------------------------- <br />　 <br />＜著者紹介＞ <br />北　教之（東京都調布市／44歳／男性／会社員）</p>]]></description>
            <link>http://novel.chofu.com/2010/01/5-8.html</link>
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                <category domain="http://www.sixapart.com/ns/types#category">36_第5回応募作品紹介</category>
            
            
            <pubDate>Fri, 29 Jan 2010 14:22:23 +0900</pubDate>
        </item>
        
        <item>
            <title>＜第5回応募作品＞「一年後の舟」　著者： 時乃　真帆</title>
            <description><![CDATA[<p>　台所が彼女の担当。僕はリビングの六畳間の床に雑巾がけをする。家具を除けた跡が濃い茶色に残っている。雨は降ってはいないが、まだ明けない梅雨のどっぷり重たい湿気に僕は汗を吹きだす。<br />「ねえ」と彼女の声がする。<br />　すぐに「うん」とは答えられず、そのまま彼女の言葉が続くのを僕は待つ。<br />「お米買っておくの忘れた」<br />「いいよ、明日行くから」<br />「ごめん。玄米のね五分突きって頼むんだよ」<br />「いなくなったら白いご飯にするさ」<br />「――そうか。そうだよね」<br />　うん、そうだよ。いいだろ、そうしたって。<br />今日、彼女は十年一緒に暮らしたこの部屋を出て行く。</p>
<p>　チャイムの音に彼女がリビングに顔を出す。<br />私が出るのは変だからと大真面目に訴える。<br />チャイムの途切れ目に、僕ははい、と答えた。<br />――隣に引っ越してきた者です。つまんないものですが、と三十歳見当の男が置いていったのはミニタオルの包みだった。へええ、と二人して覗き込む。なるほどね、そうだよねと二人揃って頷くのが可笑しい。<br />「あの時もこうすれば良かったんだよねえ」</p>
<p>　十年前、僕らがこの２Ｋのアパートで一緒に暮らすことになった時、引越しの挨拶に蕎麦を選んだ。折角地元の名物なんだし、と言う僕に、地元のものなんて皆食べ飽きてるんじゃない？　と言い張る彼女。でも僕は地元だからこそ逆に盲点なのだよ、と訳の分からぬ理屈で言いくるめ、わざわざ二人して深大寺の蕎麦を買いに行ったのだ。僕らの部屋の左右上下と管理人の分、合わせて五世帯分の蕎麦。ただ計算違いは都会の住民は訪ねて良い時間には留守のことがほとんどで。結局のところ管理人だけが「これはご丁寧に」と受け取り、残りは賞味期限と競争すべく、僕らの腹に片付けた。</p>
<p>　彼女の分の荷物を運び出した部屋は、変に風通しが良く、落ち着かない感じがする。<br />「じゃあ、行くね」<br />　小さな旅行鞄とバッグを手に彼女が玄関に立つ。キーホルダーからこの部屋の鍵を外す。<br />その同じキーホルダーにこの間から新しい電子錠が取り付けられたのを僕は知っている。これから彼女が暮らす、きっともっと広い部屋のオートロックのマンションの鍵。</p>
<p>　調布行きのバスを一緒に待っていた僕は、出来るだけ軽く聞こえるように彼女を誘った。<br />「引越し蕎麦、最後に奢る」<br />　ええ？　と彼女が笑ってくれたのを見逃さず、旅行鞄をするりと持つ。反対側のバス停に深大寺行きのバスがもうそこに迫っている。<br />「行こう、奢るから」<br />　僕は道の向こうへと急ぎ渡った。<br />　平日の深大寺はぽかりと時の穴に落ちたかのように、人気がなかった。そう言えば蕎麦のことばかりが頭にあって、一度も本堂に足を向けてなかったと二人して山門をくぐる。横で手を合わせる彼女を盗み見る。何を祈っているのか、穏やかな静かな横顔。これからの彼との生活？　僕との平和な清算への感謝？　意地悪な言葉が次から次へあふれ出る。<br />――彼女に罰があたりますように。<br />――あの男は実はふたまた男で暴力野郎でマザコンでギャンブル好きでキャバクラ通いが大好きでそれからそれから――。<br />「ね、なにをあんなに熱心に祈ってたの？」<br />彼女に問われ、僕は本当のことが咽喉まで出かかり慌てて飲み込む。<br />「この間の文学賞のこと？」<br />　途端に高揚した気分が萎える。ズボンのポケットに突っ込まれているのは、家を出る時覗いたポストから引っ張り出した薄い封筒。中堅の出版社が主催する文学賞の名前がプリントされていた。審査結果在中とあった。</p>
<p>　半年前、彼女のすべてが薄いゼラチンの膜で覆われた。近くにいるのに実体がない。言葉を交わしているのにぼんやり遠い。いつもの笑顔、いつもの会話、いつもの二人の風景。なのにいつの間にか隣に座る他人になっていた。元々僕らの生活はすれ違っていた。出版社の総務部に勤める彼女と小説書き志望の僕。六年前、僕の勤務する文具の卸メーカーが業務縮小になったのをきっかけに、小説家志望者がするにふさわしい生活に入った。つまり家事のほとんどを僕が担当し、彼女が帰る頃に二十四時間スーパーの深夜レジのバイトに入る。その後、早朝のオフィス清掃を終えて彼女が起きだす時間に帰る。彼女と共に軽い朝食を食べて彼女の出勤を見送り、短くも深い睡眠を取ったのち執筆。もしくは取材と称した散歩。このところ散歩の時間が圧倒的に多くなっていたけれど。だけどゼラチン越しの彼女になってから、僕の指は猛烈にパソコンのキーボードの上を動いた。<br />　彼女ガ離レテイク。<br />　暗い予感が僕に張り付いて離れない。それを忘れる為、僕は画面の上に僕らが出会ったなにもかもがいい加減な希望と、意味もない優越感に溢れたあの季節のことを書き連ね埋め尽くした。<br />　ほらこんなにも僕らは輝いていたのだから。</p>
<p>　けれど。どうやっても。<br />　僕らの季節は別れの章だけが残されていて。<br />「完」の文字を打ったその原稿を、僕はもう見るのも嫌になり、そして彼女に見られるのも怖かった。画面からデータを消し去り、プリントアウトした原稿の束は、間近に迫っていた中堅出版社の文芸賞の宛名を殴り書きにした封筒に突っ込んだ。あくまで彼女の目からのカモフラージュのつもりだった。けれど。<br />早朝オフィス清掃の帰り道、少しでもアパートへの戻りを遅らせたくて、遠回りした大きな街の、昼も夜も灯りのついた大きな郵便局で僕はようやく目の前から原稿を消すことに成功した。</p>
<p>　彼女が僕の手を取った。余りにも懐かしい温かい感触に僕はびく、となる。彼女は気づかない振りをして続ける。<br />「ほら、ここ、それから、ここも」<br />　本堂よりもなお古い大師堂に座る木彫りの像に僕の手を這わせる。像が黒ずんでいるのは、病んだ信者が平癒を祈って同じ部位をさするためだ。<br />「腱鞘炎だって言ってたでしょ？　それと腰も、ああ、それから目。最近変だって」<br />　小柄な元三大師の像に、僕の手を這わせる彼女。数え上げる僕の不調は大師の体全部と言ってもいいくらいだ。<br />「百円のお賽銭ぐらいで欲張りだよ」<br />　それもそうね、とようやく彼女は僕の手を離す。僕は軽くなってしまった右手で大師像の一箇所をゆっくりと押さえる。<br />――ここさえ治してくれたらいいんです。<br />大師の左の胸に僕は祈った。<br />　<br />　蕎麦屋の入り口には大きな笹が立てられていた。脇に置かれた床机に短冊とマジックペン。忘れてた今日は七夕祭りか。<br />「どうぞ、お願い事書いてくださいな」<br />　絣の上下を着た女性が声をかける。揃いの衣装がこの店のユニフォームらしい。<br />断るのも大人げないとそれぞれにペンを持つ。なんて書こう。彼女を見やると眉間に皺をよせて短冊を睨んでいる。真剣になった時の彼女の癖だ。すう、とひと息吸い込むと彼女のペンが走る。これからの幸せでも祈るのか、そりゃあそうだろう。僕はすっかり書く気が失せ、彼女が書き終えるのを離れて待つ。<br />「見ないでよ」<br />　店員が紐で引き下げてくれた笹の、一番高い枝を選んで彼女は短冊を結びつけた。手を離すと笹はほどかれたように天を目指す。小さく手を合わせる彼女から僕は目を逸らした。</p>
<p>　席についた彼女に、何でも好きなものを頼めよ引越し祝いだと言い置き、僕はもう一度店先に戻る。ポケットから審査結果を知らせる薄い封筒を取り出し、紐に結わえ付ける。不思議そうに見ていた店員に頼み、もう一度笹を低くたわませてもらう。どうせまた落選だ。こんなもの持っていても仕方がない。せめて空に近い枝に結ぼうと欲を張る。彼女が先ほど結んだ短冊が目に入る。<br />――彼の作品が認められますように。<br />　馬鹿じゃないのか。<br />　なんだよな、こんな事書くなよな。<br />　ふいに泣き出した僕を気味悪く思ったのか、店員がひっそりと離れていくのが分かった。僕は薄っぺらな僕の短冊をも一度見る。これを引越し祝いの笑い話にしよう。ほらな、やっぱり駄目だったよ。そうしたら今度こそあいつは安心して愛想をつかすだろう。僕は封筒を開いた。</p>
<p>「やっぱり引越し蕎麦はやめた」<br />僕は売店で買い求めた土産の蕎麦の包みを彼女の腕に押し付ける。<br />「二人で食べてよ。その方がいいよ」<br />「でも」<br />「もともとそうするつもりだったんだから」<br />　渋る彼女を乗せたタクシーを見送ると今来た道へと踵を返す。やり直しだ。もう一度笹の天に僕の短冊を結びつけるのだ。<br />――審査員奨励賞、だとさ。<br />　これってなんなんだよ。もう少しやってみればって、期間延長のお許しか。まあいいさ、どっちみちここまでやってきたんだ。あと一年、来年の七夕まで、彼女の願い事をせめて叶えられるかどうか。やってみるのも多分悪くない。と、ポツリ雨が来た。</p>
<p>---------------------------------------------------------------- <br />　 <br />＜著者紹介＞ <br />時乃　真帆（東京都大田区／45歳／女性）</p>]]></description>
            <link>http://novel.chofu.com/2010/01/4-58.html</link>
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                <category domain="http://www.sixapart.com/ns/types#category">36_第5回応募作品紹介</category>
            
            
            <pubDate>Fri, 22 Jan 2010 18:04:59 +0900</pubDate>
        </item>
        
        <item>
            <title>第6回　短編恋愛小説「深大寺恋物語」　募集要項</title>
            <description><![CDATA[<p>
<span class="mt-enclosure mt-enclosure-image" style="DISPLAY: inline">&nbsp;</span>第6回　短編恋愛小説「深大寺恋物語」　募集要綱</p>
<p>【募集内容】<br />関東有数の古刹である天台宗別格本山「深大寺」の発祥は、その名前の由来でもある「深沙大王」という神様にまつわる「縁結び」の物語に由来する、と伝えられています。「深大寺」という歴史あるお寺、その門前に位置する数多くの「そば屋」や「お土産屋」、そして「東京都立神代植物公園」をはじめとする、その界隈の「豊かな自然や花と緑」を盛り込んだ、現代のラブストーリーを募集します！</p>
<p>【応募規定】<br />◆Eメールでの応募を推奨。データは必ずワードもしくは一太郎で作成のこと。（メールに直接記入やＰＤＦは不可）<br />◆Ａ４サイズ１枚４００字設定で、空白も含み１０枚以内。必ず「横向縦書」。<br />◆原稿用紙を使用する場合は４００字詰めの用紙で、清書であること。原稿と表紙は分け、原稿にはタイトルも含め、本文及びページ番号以外一切記載しないこと。<br />◆作品の表紙は公式ＨＰ(<a href="http://novel.chofu.com/">http://novel.chofu.com</a>)からダウンロードしたものを使用。<br />◆表紙をダウンロードできない方は、原稿とは別に手書きの表紙を用意し、住所、氏名、年齢、性別、職業、電話番号、作品のタイトルを記載。<br />◆原稿には穴を開けず、表紙を除いてページ番号をふり、折らずに送ること。（ＦＡＸは不可）<br />◆一度提出した原稿の修正、並びに規定に合っているか等の問合せは不可。<br />◆応募点数制限なし。未発表作品に限る。</p>
<p>
<span class="mt-enclosure mt-enclosure-image" style="DISPLAY: inline"><img class="mt-image-none" height="24" alt="「規定の表紙」＋「縦書４００字設定済みの本文用フォーマット」をダウンロード" src="http://novel.chofu.com/download_icon.gif" width="86" /></span>＜<a href="http://chofu.com/web/jintanren/6th_genkou_hyoushi.doc">「規定の表紙」＋「縦書４００字設定済みの本文用フォーマット」</a>＞（word）</p>
<p><img class="mt-image-none" height="24" alt="募集要項をダウンロード" src="http://novel.chofu.com/download_icon.gif" width="86" />＜<a href="http://chofu.com/web/jintanren/6th_youkou.pdf">募集要項</a>＞（pdf）</p>
<p><br />【応募資格】<br />不問</p>
<p>【審査員】<br />＜村松友視＞ <br />1940年4月10日東京生まれ。 <br />慶応義塾大学文学部哲学科卒業後、中央公論社勤務を経て作家となる。 <br />1982年『<a href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4041502047/jtenniscom-22/250-3499345-3240245" target="_blank">時代屋の女房</a>』で第87回直木賞受賞。 <br />1997年『<a href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/410101115X/jtenniscom-22/250-3499345-3240245" target="_blank">鎌倉のおばさん</a>』で第25回泉鏡花文学賞受賞。 <br /><br />＜井上荒野＞ <br />1961年東京生まれ。 <br />成蹊大学文学部英文学科卒業後、出版社でアルバイト。 <br />その後、大学受験生向け新聞のフリーライターに。 <br />その傍らに書き上げた小説「私のヌレエフ」が第１回フェミナ賞を受賞。 <br />2008年『<a href="http://www.amazon.co.jp/%E5%88%87%E7%BE%BD%E3%81%B8-%E4%BA%95%E4%B8%8A-%E8%8D%92%E9%87%8E/dp/4104731021/ref=sr_1_1?ie=UTF8&amp;s=books&amp;qid=1216132272&amp;sr=1-1">切羽（きりは）へ</a>』で第139回直木賞受賞<br /><br />＜清原康正＞<br />1945年旧満州鞍山生まれ。<br />同志社大学卒業。文芸評論家。<br />著書に『中山義秀の生涯』、『小説を書きたい人の本―好奇心、観察力、感性があれば、小説は書ける! 』、共著に『昭和文学の風景』など。<br /><br /><br /></p>
<p>【賞　金】<br />最優秀賞１０万円（１編）、　審査員特別賞５万円、　調布市長賞　など</p>
<p>【応募締切】<br />２０１０年７月７日（水）１３時（必着）</p>
<p>【発　表】<br />２０１０年１０月もしくは１１月に開催予定の「深大寺そばまつり」並びに「深大寺恋物語公式ＨＰ<a href="http://novel.chofu.com/">http://novel.chofu.com/</a>」にて</p>
<p>【主　催】<br />深大寺短編恋愛小説実行委員会</p>
<p>【共　催】<br />深大寺そばまつり実行委員会・特定非営利活動法人　ちょうふどっとこむ</p>
<p>【協力（予定）】<br />アカデミー愛とぴあ・深大寺奉賛会・深大寺そば組合・じんだいフェスタ２００８実行委員会・調布タウン誌１８２、Ｊ：ＣＯＭ調布・世田谷、調布エフエム放送株式会社・特定非営利活動法人　・林建設株式会社</p>
<p>【後援（予定）】<br />調布市・深大寺・社）調布青年会議所・財団法人　調布市文化・コミュニティ振興財団・調布市商工会・調布市教育委員会・調布市観光協会・社会福祉法人　調布市社会福祉協議会・調布市文化協会、角川大映撮影所、日活撮影所、京王電鉄株式会社、京王電鉄バスグループ</p>
<p>【応募先】<br />〒182-0026　東京都調布市小島町２―５５―１調布南コーポラス１０２<br />　　　　　　　　　　　　　　　　（ちょうふどっとこむ内）深大寺短編恋愛小説実行委員会事務局<br />電話:０４２‐４８７‐４２８２　ＦＡＸ:０４２‐４８７‐４２８０<br />E-Mail：novel★chofu.com（★部分を@に変更の上、お送りください）　　</p>
<p>【諸権利】<br />入賞作品の出版権、上映権、映像化権等の諸権利全ては主催者及び共催者に帰属。また、主催者及び共催者は、全ての応募作品について、その作品をホームページ等で掲載させていただく権利を有するものとします。</p>
<p>【その他】<br />応募作品の返却はいたしません。&nbsp; <br /></p>]]></description>
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                <category domain="http://www.sixapart.com/ns/types#category">01_募集要項</category>
            
                <category domain="http://www.sixapart.com/ns/types#category">02_第6回公募について</category>
            
            
            <pubDate>Fri, 01 Jan 2010 00:00:00 +0900</pubDate>
        </item>
        
        <item>
            <title>＜第4回応募作品＞「経過観察調査員」　著者： 大澤　信明</title>
            <description><![CDATA[<em>　奈良時代(ならじだい)、ある美(うつく)しい娘(むすめ)が恋(こい)に落(お)ち、生(うま)れたのが満功上人(まんくうしょうにん)です。<br />　この満功上人(まんくうしょうにん)が深大寺(じんだいじ)を開山(かいざん)しました。<br />　深大寺(じんだいじ)は今(いま)、縁結(えんむす)びの神様(かみさま)として親(した)しまれています。 <br /><br /></em>
<p>「地球まであと一循環（サークル）。すべて順調です」<br />　経過観察調査員のサルス・Ｆ・ベリは目を覚ました。</p>
<p>　量子計算機のジーチ（ＪＣＮ）が、予定通りの時間に冷凍睡眠から俺を起してくれたようだ。</p>
<p>　一循環とは、地球の時間にして約七十五時間をあらわす単位。彼らの星は連星になっており、その星がお互い一回りするのにかかる時間である。<br />　彼らはこの時間を三つに分けて、一循環に三回寝起きをする。地球でいう三日を一循環にまとめて生活している。<br />　太陽が不規則に顔を出すこの星では、光でなく連星の影を感じて二十五時間の体内時計が働いている。</p>
<p>　一万循環に一回、我々は地球に経過観察調査員を送っている。<br />　地球時間でいえば約八十五年に一回の割合だ。今回が、百九十回目の経過観察調査（１９０調査）となる。<br />　１８８調査では「惑星全域交流レベル」までしか進んでいなかった地球文明が、前回の１８９調査で「飛行可能レベル」まで文明が進んだと報告された。現在は「大気圏突破レベル」まで文明が進んでいる可能性が高い。<br />　不安定な核融合エネルギーを使い、自らの力で自らを滅ぼす危険がある、文明進化の最も危険な時期にさしかかっているというわけだ。<br />　光子変換エネルギーを実用化して、「星系突破レベル」まで文明が進み、我々が正式なコンタクトを申し込むのは、次の１９１調査の後という事になりそうだ。その頃には、地球の知的生命体も我々と同じように、今の十倍くらい寿命が延びているであろうか。<br />　無論、それまで地球の知的生命体が自滅しなければ、であるが。</p>
<p>　地球は１７５調査の時に起こったある事件によって、誰も行きたがらない調査対象惑星となったいわくつきの星だ。<br />　その星に、文明レベルの中で最も危険な「大気圏突破レベル」の文明期に行きたい調査員などいない。<br />　だから、通常三人で行われる調査が、今回は特例として俺一人になった。</p>
<p>　俺が地球調査に名乗りを上げたとき、同僚たちはみな驚きの声を上げた。<br />　特別ボーナスがそんなに欲しいのかと嫌味を言われ、あるやつには物好きだなと笑われもした。<br />　お前の勇気は尊敬するが、頼むから無事帰ってこいよ、と本気で心配してくれるやつもいた。</p>
<p>　しかし、そんな忠告には意味がない。俺が今回この星に行く理由。それは、一人でこの星を調査できるからだ。</p>
<p>　俺は、１７５調査の時に起こった事件の真相を、ずっと追い求めてきた。フークマという上級調査員の失踪事件がなぜ起きたのか。<br />　通常の三人チームで行けば、勝手にこの「フークマの謎」を調べる事などできない。一人で行けるからこそ、この星へ行く意味があるのだ。<br />　だから、八十五年前の１８９調査にも応募せずに、その調査結果を精査するに留めた。今まで行われた調査結果は、すべて頭に入っている。特に、問題の１７５調査の結果は、暗記するほど検証している。</p>
<p><br />「ライラ、フークマは見つかったか？」<br />　１７５調査隊長カイマはライラ調査員に声をかけた。<br />「だめ、何の手掛かりもないわ」<br />「そうか、あいつはこの座標４２８２―１８２周辺にはもういないのか。どこに消えちまったのだ、まったく」<br />　カイマは一瞬考え、ライラに言った。<br />「とりあえず船に戻ろう」<br />　二人は、雑木林が広がる丘の上に浮遊している船に戻り、船の中を再び調べる事にした。船には、フークマの探査スーツや通信装置などが残されていた。<br />「あいつは何で、探査スーツを置いて外に出たのだ」<br />　隊長のカイマは、ライラに苛立ちをぶつけるように聞いた。<br />「この星の高知能生命体は我々とＤＮＡ的に非常に近いから、探査スーツを着て姿を消さなくても、不審に思われる事はないと思うけど」<br />　ライラは、カイマを見ずにそう答えた。<br />「だからって、現地知的生命体に姿を見せるのは観察規則違反だぞ。そのうえ武器カプセルも持たず、持って出たカプセルは言語補助と医療補助、後は浮遊装置の三つが入った箱だけだ」<br />　カイマには理解できない事だらけだ。<br />　ライラとカイマが船外調査を行い船に戻ってくると、船内待機しているはずのフークマは姿を消していた。<br />「ジーチ、フークマは外に出る前、ただその湧水のあたりを映しているモニターを見ていただけなのだな。」<br />　船の量子計算機に向かい、カイマは問いかけた。<br />「間違いありません」<br />　量子計算機の答えは、常に簡潔である。</p>
<p><br />　銀河系の端にある、地球という辺鄙な星を有名にしたのは、１７５調査のとき、調査員が一人行方不明になったからだ。<br />　その上級調査員だった男の名から、その失踪事件は、「フークマの謎」と言われている。</p>
<p>　地球時間の千三百年前に行方不明になった、俺の「じいさん」にあたるフークマ失踪の理由を知ることが、１９０経過観察調査の本当の目的だ。<br />　俺がフークマの孫だって事はずっと秘密にしてきた。<br />　俺の母親が生まれる前に消えた男フークマ。<br />　「ばあさん」は、自分の生んだ子がフークマの子供だとは誰にも言わずに娘を育てた。父親のフークマ自身も、その事を知ることなく姿を消した。<br />　「ばあさん」は俺にだけ、その秘密を教えてくれたのだ。<br />　<br />　事故でもなく、最優秀の調査員が煙のように姿を消した。調査員の間では伝説となっている謎だ。<br />　「地球人と話をする、ケガを治す、空を飛ぶ」この三つの事ができるカプセルを持ってフークマは姿を消した。<br />　この謎は俺が解いてみせる。<br />　「ばあさん」は「じいさん」の謎を解けるのは俺しかいないと信じて、教えてくれたんだからな。<br />　いなくなった「じいさん」に、お前が一番似ていると言って笑っていた「ばあさん」の願い、俺が叶えてみせるぜ。</p>
<p>　今から約六百年前の１８３調査の報告によると、その時フークマ達の船が停船した丘は深大寺城という城になっている。<br />　とりあえず、その城の近くに船を隠して調査をする事にしよう。<br />「ジーチ、地球座標４２８２―１８２へ向かってくれ」<br />　サルス・Ｆ・ベリは量子計算機に指示を出すと，「フークマの謎」に思いをめぐらせた。</p>
<p><em>　福満(ふくまん)とある豪族(ごうぞく)の美(うつく)しい娘(むすめ)が恋(こい)に落(お)ちました。<br />　娘(むすめ)が、湧水(わきみず)を汲(く)むとき足(あし)を滑(すべ)らせ大(おお)ケガをしたところを助(たす)けてくれたのが、医者(いしゃ)の福満(ふくまん)でした。<br />　娘(むすめ)の両親(りょうしん)は、どこの馬(うま)の骨(ほね)ともわからない渡来人(とらいじん)の福満(ふくまん)には娘(むすめ)をやれないと、二人(ふたり)の仲(なか)はさかれました。<br />　娘(むすめ)は湖(みずうみ)の小島(こじま)に連(つ)れて行(い)かれ、二人(ふたり)は会(あ)う事(こと)ができなくなってしまいました。　しかし、福満(ふくまん)は霊亀(れいき)の背(せ)に乗(の)り、島(しま)へ渡(わた)りました。　<br /></em><em>その事(こと)を知(し)った娘(むすめ)の両親(りょうしん)は、福(ふく)満(まん)の不思議(ふしぎ)な力(ちから)に驚(おどろ)き、これはきっと深沙大王(じんじゃだいおう)さまのご加護(かご)だと、二人(ふたり)の結婚(けっこん)を認(みと)めました。 <br />　深大寺(じんだいじ)を開山(かいざん)した満功上人(まんくうしょうにん)は、この二人(ふたり)の息子(むすこ)です。 </em></p>
<p>&nbsp;</p>
<p>---------------------------------------------------------------- <br />　 <br />＜著者紹介＞ <br />大澤　信明（東京都世田谷区）</p>]]></description>
            <link>http://novel.chofu.com/2009/12/4-57.html</link>
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                <category domain="http://www.sixapart.com/ns/types#category">37_第4回応募作品紹介</category>
            
            
            <pubDate>Fri, 25 Dec 2009 18:30:56 +0900</pubDate>
        </item>
        
        <item>
            <title>＜第4回応募作品＞「ソバとショカ」　著者： 松岡　由希子</title>
            <description><![CDATA[<p>「もりそば二丁！」<br />「かけ大盛り、ざる一杯、入ります」<br />僕はひたすら、蕎麦を湯に入れる。、蕎麦のストックもなくなってきた。隣の作業場で親方が打った蕎麦を調理場に移す。只今、木曜日の午後十二時十五分。深大寺の参拝客が昼食にやってくる佳境の時間。息つく暇もなく、蕎麦を湯に入れ、茹で上がったものを次々と食器に盛っていく。<br />「もりそば、お願いします！」<br />店にいるおかみさんに僕が声をかけると、もりそばを両手に抱えながら、<br />「ごめん。テラス席の食器、片付けに行ってくれる？私、ちょっと手が回らないのよ。」<br />おかみさんもてんてこ舞いだ。僕は調理場から出て、テラス席のテーブルを片付けていた。<br />「あの、すみません。ここいいですか？」<br />後ろから声が聞こえた。<br />「どうぞ。今、片付けます。」<br />そう言って僕が振り返ると、若い女性が立っていた。長い黒髪をきちっと束ね、色白で小顔な細身の女性。僕はその女性の凜とした美しさにしばし我を忘れたが、次の瞬間、何もなかったかのように、彼女が座るテーブルを片付けた。<br />「今、お水とメニュー、お持ちします。」<br />「メニューは結構です。もりそば、いただけますか？」<br />「承知しました。冷たいお水、今、持ってきます。」<br />僕は店に戻り、彼女の水をコップに入れる。普段の接客と同じことをしているはずなのに、なぜかどきどきする。僕はグラスの水を彼女のテーブルに運び、調理場に戻った。次々入ってくる注文のことは上の空。気がつくと、僕はデッキ席の彼女を眺めていた。<br />　只今午後二時三十分。蕎麦屋の嵐のようなランチタイムが終わり、休憩に入るのはいつもこの時間。僕は、深大寺の境内のベンチに座り、缶コーヒーを一口飲むと、広く多い茂った緑を眺め、大きく息を吸った。ここにくると、心が穏やかになり、自然と活力が蘇る。僕のいつもの休憩タイム。そのとき、少し離れた隣のベンチに、誰かが座る気配を感じた。さっき、蕎麦屋のデッキ席でもりそばを食べていた女性、凜とした美しさに僕が一瞬心を奪われたあの女性が、隣のベンチに座っていた。僕は勇気を振り絞って声をかけた。<br />「先ほどは、どうも」<br />彼女は一瞬、ぽかんとして僕を見ていたが、<br />「あ、さっきのお蕎麦屋さん？こちらこそ、ごちそうさまでした。もりそば、美味しかったです。」<br />彼女は笑顔で答えてくれた。<br />「今まで拝観ですか？」<br />「いえ、写経教室です」<br />シャキョウ？僕は意外なワードに一瞬、面食らった。<br />「写経だなんて、渋いですよね。でも、はじめてみたら、すごくはまっちゃって。お経の文字をただ書いていくだけなんですけど、癒されるというか、落ち着くというか。」<br />彼女は笑って言った。<br />「じゃあ、僕が毎日ここでこうやってぼーっとしているのと、同じようなものですね。」<br />僕は笑い返した。<br />「僕はここに来ると落ち着くんです。田舎を思い出します」<br />「田舎？」<br />「長野です。戸隠っていう蕎麦の産地で、僕の実家、蕎麦の実を作ってるんです」<br />僕は聞かれてもいないのに、無意識のうちに自分のことを話していた。<br />「長野は、空気も水もきれいです。だから、美味しいそばが獲れるんです。実家の蕎麦もうまいんですよ。あの蕎麦屋に実家の蕎麦を入れさせてもらっていて、そのツテで、僕は三年前からあの店で蕎麦の修行を。」<br />「素敵ですね。きっと立派な蕎麦職人になられますよ。」<br />そう話す彼女の横顔は、凜として、優しくて、美しい。<br />「そろそろ行かなくちゃ。」<br />彼女の声でふと我に返る。彼女とは、こんな風に偶然に会うことなど、もうないかもしれない。<br />「写経教室にはしょっちゅう来られているんですか？」<br />僕は冷静を装いながら、次、彼女と会う機会を探る。<br />「ええ。写経教室は毎週木曜、やっているんです。私もしばらく通ってみようかなって。」<br />「だったら、また、うちの蕎麦、食べにきてください。」<br />僕は必死だ。<br />「もちろん。あのお蕎麦、本当に美味しかったですもの。また伺います。」<br />彼女は微笑んで、去っていった。<br />　僕は、その後ずっと、あのときの彼女の横顔が忘れられなかった。正確に言うと、どんな顔立ちだったのかはぼんやりとしか覚えていない。ただ、あの凜とした美しさは僕に強烈なインパクトを残しており、気がつくと、そんな彼女の面影を自分の心に刻もうとしているのだ。<br />「最近、なんだかぼーっとしているね。好きな女の子でもできたのかい？」<br />蕎麦屋のおかみさんにも冷やかされっぱなしだ。僕は、写経教室があるという次の木曜日が待ちきれなかった。彼女にもう一度会いたい。名前も、歳も、どこに住んでいるのか、何をやっているのかも知らない彼女に。しかし、次の木曜日も、その次の木曜日も、彼女は僕の前に現れなかった。<br />　彼女と初めて会ったあの日以来、もう1ヶ月近くが過ぎようとしている。最近の僕は、すっかりあきらめモードだ。そんなある日の正午すぎ、蕎麦屋はいつものとおり、お客さんでごったがえしていた。<br />「ごめん。デッキのテーブル、片付けてきておくれ」<br />おかみさんに言われ、彼女が初めて店に来たときと同じように、僕はテーブルを拭いていた。<br />「すみません。ここ、いいですか？」<br />僕の背中越しに、かすかに覚えのある声が聞こえる。振り返ると、そこには、凜とした美しい彼女がいた。<br />「あの、ここ、いいですか？」<br />呆然として何も返事をしない僕に、彼女はもう一度、そう言った。<br />「あ、どうぞ。」<br />やっと我に返った僕に、彼女は少し笑かけながら、こう言った。<br />「もりそば、お願いします。」<br />僕は調理場に戻ってからも、興奮気味だった。<br />これは現実なのか？あの女性が彼女だとして、僕のことを覚えているだろうか？彼女とまた会えた興奮と同時に、たくさんの不安が僕の頭をよぎる。しばらくしてデッキに目をやると、彼女は、自分がオーダーしたもりそばを美味しそうに食べている。僕はそんな彼女をしばらく見つめ、やっと意を決した。今だ、今しかない。<br />　もりそばを食べている彼女のもとへ、僕はつかつかと歩いていった。<br />「あの・・！！」<br />僕の唐突過ぎる声は、店中に聞こえるくらい大きかった。彼女の箸は蕎麦を口に運ぶ手前で止まっており、面食らった顔で僕を見上げている。<br />「あ、すみません、お食事中なのに。」<br />僕は、恥ずかしさで、頭は真っ白、顔は真っ赤だ。すると、彼女は、<br />「また、もりそば、食べにきちゃいました」<br />茶目っ気たっぷりに笑った。僕のことを覚えていてくれたのだ。うれしさと安堵で、僕のひざは崩れそうだ。一息ついて、少し落ち着こう。僕は大きく息を吸って、こう言った。<br />「僕、2時半に、境内のベンチで待ってます。前、お会いした、あの場所で。」<br />緊張でパニック気味の僕を見る彼女は笑顔だった。<br />「はい。写経教室が終わったら、立ち寄りますね」<br />　只今、午後二時二十五分。境内のベンチで、いつもの缶コーヒーを片手に、僕はかなり舞い上がっている。<br />「お待たせしました。」<br />僕の背中からあの声がした。彼女だ。僕は、平静を装って、こういった。<br />「しばらくお会いしていませんでしたよね。」<br />「写経教室、さぼっちゃってましたから。仕事でニューヨークとロンドンに。個展をやっていたもので。私、これでも一応、書家の卵なんです。」<br />ニューヨーク？ロンドン？ショカ？<br />僕と彼女は別世界だ。蕎麦屋の修行小僧とショカでは、格が違いすぎる。<br />「なんか、すごいですね。すごすぎて、僕にはよくわからない世界です。」<br />ショックさめやらない僕は、やっとその一言を発する。すると、<br />「私にもぜんぜんわからない世界です。」<br />彼女はいたずらっぽく笑った。<br />「写経のほうがずっと楽しいです。何も考えずにただ文字と向き合えるのが。だから、日本に帰ったら、真っ先にお蕎麦を食べて、写経に行こうって。それだけを楽しみに、仕事してたんですよ。」<br />彼女の笑顔が、僕にはまぶしくて、うれしくて、愛おしくてたまらない。もっと彼女のことを知りたい。僕のことも知ってほしい。そんな感情がどんどん湧いてくる。<br />　そのとき、僕は、はっきりわかった。僕は、彼女に恋をした。</p>
<p>---------------------------------------------------------------- <br />　 <br />＜著者紹介＞ <br />松岡　由希子（東京都世田谷区／35歳／女性／自由業）</p>]]></description>
            <link>http://novel.chofu.com/2009/12/4-56.html</link>
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                <category domain="http://www.sixapart.com/ns/types#category">37_第4回応募作品紹介</category>
            
            
            <pubDate>Fri, 18 Dec 2009 16:43:03 +0900</pubDate>
        </item>
        
        <item>
            <title>＜第4回応募作品＞「ゆれる果実」　著者： 正村　純</title>
            <description><![CDATA[<p>成海(なるみ)の長い黒髪が風に揺れている。裾に花の刺繍(ししゅう)をあしらった白いワンピースは人目を引き、白いハイヒールは楽器のようにコツコツと深大寺通りをこだまする。その音は水生植物園の前でピタリと止まった。成海はその大きな黒い瞳で、フェンス越しに園内の様子を懐かしく覗き込んだ。　<br />四月の日曜日、空は青く澄み切り日差しは暖かく、多くの家族連れやカップルで賑わっている。成海は静かに瞼を閉じた。そしてテープを巻き戻し再生するようにあの日のことを思い返した。<br />一面真っ白で雪が舞っている。白銀の反射光が眩しい。そこにいるのは成海と広人(ひろと)だけ。<br />携帯が鳴り現実に戻される。母からだ。きっと受話器の向こうで気を揉んでいるに違いない。<br />「成海、今何処なの？」<br />「今更逃げたりしないよ。始まるまでには戻るから」<br />実は、今日は成海のお見合いなのだ。</p>
<p>「大学を卒業して就職もせず、さりとて何かに打ち込むわけでもなく、これからどうやって生きてくつもりだ？」<br />辛辣な父の言葉がパンチのように効いた。厳格さは五十を越えて益々磨きがかかる。相手は父の上司の御子息で丸山大吉さん。名前はおめでたいけど十歳以上も年上。成海の写真選考では失格。丸顔に丸い黒縁眼鏡、眉毛の上で毛先を揃えた坊ちゃんカットは、笑み一つなく色白で神経質そうで・・・。<br />「見合という堅苦しいものではないのよ」<br />母が白々しく言い、父が頷く。母は成海の今の年で成海を産んでいる。晩婚化が珍しくない昨今だが母には通じない。気品のある柔らかな面持ちだが押しは強い人だ。この両親が外堀、内堀と埋めて追い詰めてくる。成海に逃げ道などなかった。</p>
<p>先方が渋滞に巻き込まれ遅れるという連絡が入ると、成海は散歩と言って座敷を抜け出した。見合いの会場は深大寺通りに面した水車館近くの会席料理の店だった。正面玄関から出て広い敷地を真っすぐに歩きだすと左手に御堂が見えてくる。大黒天と恵比須尊がこっちを向いてにっこりと笑っている。成海は見守られているようで、溜まった空気がふっと抜けるように落ち着いた気分になった。木漏れ日が差す深大寺通りに出ると無意識に足はあの場所へと向かった。</p>
<p>三年前の二月、当時大学三年生だった成海は、八王子駅から北へ少し歩いたコンビニでバイトを始めた。家の近所でするのは少々憚(はばか)られたので学校の近くにしたのだ。接客業は未経験で不慣れだった成海に優しい笑顔と透る声で助け舟を出してくれたのが広人だった。広人の包容力は成海をいつも安心させた。同じ大学だと分かると二人の距離は急速に縮まった。昼間は閑散としている店内のカウンターに二人並び、手が空いている時はたわいのない会話を楽しんだ。<br />「就職は地元だっけ？」<br />広人は一つ上なので卒業なのだ。彼は山梨県から中央本線で八王子まで通っていた。<br />「ああ、彼女が甲府で働いているから俺も甲府で就職する」<br />広人に高校の時から交際している彼女がいることは前に聞かされていた。だから彼への想いにも蓋(ふた)をして、いい友達関係を苦しみながらも演じていた。成海が急に黙り込むと広人は薄々感じていた成海の気持ちから逃げるように本棚に向かった<br />　本棚は入口そばのコピー機隣りにある。雑誌が主だが文庫本と地図もある。本棚の後ろはガラス張りになっていてサンルームのように太陽が差し込むので、昼間は大抵ブラインドを下ろしている。<br />「広人、仕事中に立ち読みしていいの？」<br />広人が真剣な眼差しで読んでいたのは『日本の城めぐり』という月刊誌だった。<br />「広人、お城好きなの？」<br />成海はカウンターから身を乗り出して広人の本を覗き込んだ。<br />「ああ。結構行ったよ」<br />「私の住んでいる調布にも城あるよ」<br />「え？マジで？」<br />広人は振り返り大きな声を出した。<br />「行きたい。案内して」<br />渇望し瞳を光らす広人に少し驚いた。成海は気後れするように呟(つぶや)いた。<br />「いいけど・・・」</p>
<p>　三月中旬だというのに、その日は朝からあいにくの雪模様であった。中止にしようかと聞くと広人は童のように今日がいいと駄々をこねた。成海には夢中になれるものが何もない。いつも流されて何となく生きている。だから熱中できるものがある広人が羨ましく思えた。<br />調布の深大寺には戦国時代に城があった。場所は水生植物園内の小高い丘の上にある。上杉朝定(ともさだ)が北条氏に対抗するために古き郭(くるわ)を再興したらしい。現在、建築物は残っていないが空堀や土塁はまだある。<br />二人は深大寺でバスを降りると雪が舞う深大寺通りを傘も差さずに歩きだした。首をすぼめている成海を見て、広人は自分の白いマフラーを成海の首にぎゅっと巻きつけた。<br />「ありがとう。いいの？」<br />「山梨県人は寒さには慣れているからさ」<br />そう言って広人は雪で湿った顔を手で拭いながら屈託のない笑みを浮かべた。<br />水生植物園内は流石にこの天気で人影もなく、おかげで二人だけの貸し切り状態になった。木道の手摺には薄っすらと雪が積もり、寒さを凌ぐため二人とも猫背になっていた。遠くに聞こえる烏の鳴き声が悲鳴に聞こえる。少し前を行く広人が左手で成海の右手を握り締めてきた。<br />「滑ったら危ないからな。手離すなよ」<br />広人は前を向いたまま成海を見ようとはしなかった。成海は体中に電気が走り心の中でダンスビートが鳴り響き、返事すらできなかった。右折して泥がぬかる山道に入る。その分広人の握る力が強くなる。<br />「ここか・・・」<br />広人は深大寺城の石碑を見て案内板を見て感慨にふけった。そしてありがとうと振り向き様に成海を抱きしめた。息がとまる。冷静になろう。これは愛情の抱擁なんかではない。単なる歓喜の一表現だと成海は心を静めた。しかし第二の波が打ち寄せた。今度は成海の唇を塞いだのだ。甘く切ない感触が唇に残った。成海は俯き広人は黙っている。僅かな時間なのに永遠のように思えた。二人はそのまま無言で今来た道を戻った。</p>
<p>　あれから三年ここには来ていない。白銀は新緑に変わっていた。<br />「すいません。深大寺城どっちですか？」<br />突然声をかけられ振り向くと一人の青年が立っていた。年は三十ぐらいで上下紺のスーツ姿、右手にビジネス鞄を持っている。額の汗をハンカチで拭いながら爽やかな笑顔を見せていた。<br />「ああ、この園内にあります」<br />成海は視線をそっちへ投げた。<br />「そうですか。ありがとうございます」<br />丁寧にお辞儀をして青年は園内に入った。<br />「あ、案内しましょうか？」<br />成海は青年の後を追いかけ声を弾ませた。何かいい感じな人だと思った。<br />子供達が大声で騒いで走り回るので木道は上下に揺れ軋(きし)んだ。あの日は雪で分からなかったが、園内には様々な草花が木道下の湿地を彩っている。観光地の湿原のようだ。<br />「お仕事ですか？」<br />「ええ。でもお客さんの都合でキャンセルになりました」<br />「どちらからいらしたんですか？」<br />「横浜です」<br />「横浜なのにここに城があるなんて、よく分かりましたね？」<br />「ネットなら何でも分かる世の中ですよ」<br />「そうですね」<br />お互いに苦笑してしまった。<br />水をさすように携帯が鳴った。また母からだ。<br />「成海、丸山さんお見えになったからすぐに戻ってきなさい」<br />「やっぱ・・・今日キャンセルする」<br />「何だって？許しませんよ」<br />「・・・」<br />「成海？もしもし？」<br />成海は電話を切り電源も切った。表情が険しくなり視線が鋭くなった。青年は心配そうに成海を見ている。<br />「どうかしました？」<br />「自分の人生なんだから自分で決めなきゃいけないですよね？」<br />そう言って成海は納得したように大きく頷いた。ためらいはなかった。青年は意味不明なことを言われ言葉に詰まった。<br />右折して山道に入ると、斜面には薄紫色のシャガの花が一面に咲き乱れ二人を向かえてくれた。石碑付近は林になっている。青年は写真を何枚か撮り、二人は木陰のベンチに座った。青年が鞄から取り出した一冊の雑誌、それは広人も読んでいた『日本の城めぐり』だった。<br />「あ！それ・・・」<br />成海はハッとした。青年はその声に驚きながらもページをめくり成海に見せた。<br />「今度はここに行くつもりなんです」<br />「あ、私、ついて行ってもいいですか？」<br />成海は得意そうに城の話を始めた青年をじっと見つめた。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>＜著者紹介＞ <br />正村　純（東京都調布市／40歳／男性／ファイナンシャルプランナー）</p>]]></description>
            <link>http://novel.chofu.com/2009/12/4-55.html</link>
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                <category domain="http://www.sixapart.com/ns/types#category">37_第4回応募作品紹介</category>
            
            
            <pubDate>Fri, 11 Dec 2009 17:45:46 +0900</pubDate>
        </item>
        
        <item>
            <title>第5回　短編恋愛小説「深大寺恋物語」公募入選作品授賞式</title>
            <description><![CDATA[<p>先月末、11月28日に、第5回の深大寺恋物語の授賞式を無事終えることができました。<br />当日は深大寺で中開帳が始まったばかりだったため、秘仏拝観に非常に多くの方が列を作ってる中での授賞式でした。<br />真っ赤に染まった紅葉も美しく、今まで行ってきた10月の授賞式とは違う、非常に趣きのある授賞式でしたよ～。</p>
<p>
<p>
<p><img class="mt-image-none" height="281" alt="2009shikiten.jpg" src="http://novel.chofu.com/2009shikiten.jpg" width="421" /></p>
<p>&nbsp;</p>
<p>第6回の公募もほぼ固まって参りました。<br />要項がまとまりましたら、またブログにて掲載いたしますのでよろしくお願いいたします。</p>
<p></p>
<p></p>]]></description>
            <link>http://novel.chofu.com/2009/12/5-7.html</link>
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                <category domain="http://www.sixapart.com/ns/types#category">91_第5回公募について</category>
            
            
            <pubDate>Fri, 11 Dec 2009 16:19:29 +0900</pubDate>
        </item>
        
        <item>
            <title>＜第4回応募作品＞「画家と公爵」　著者： 吉岡　雄二</title>
            <description><![CDATA[<p>僕は二十五歳にして初めて精神的疲労というものを痛感する。<br />チームを組んで仕事をしていた契約社員が辞めて仕事が急激に忙しくなった。仕事に忙殺されて数少ない友人との付き合いも悪くなった。彼女が僕との関係には先が見えないと言って僕を棄てていった。要するに僕は疲弊し、孤独になったのだ。<br />僕は休日出勤してオフィスに独りのときにはだいたいベートーヴェンの後期ピアノ・ソナタを聴いている。他のどんなときよりもそのときがよく音楽を理解できる気がするからだ。あるいは休日のオフィスに独りで働いている人間と晩年のベートーヴェンには何かしら共通点があるのかもしれない。<br />　そんなわけで今日も僕はベートーヴェンのピアノ・ソナタを聴いている。</p>
<p>　僕は休日にはよく深大寺にいる。僕にとって精神的疲労を解きほぐしてくれる数少ない場所だ。普段は人気の無い早朝に来るけれど、今日のように仕事帰りのときはどうしても夕方になってしまう。でも夕方の深大寺も悪くない。黄昏時の寺にはどこか特殊な雰囲気がある。しかし今日はいつもより幾分早く深大寺に到着したのでまだ黄昏は訪れていない。特殊性を欠いた純粋に澄んだ青空と四月の豊かな緑が深大寺を壮麗に飾っている。そんな情景を石段の上に座りながら僕はぼーっと眺めている。空というのは不思議だ。様々な啓示に満ちている。印象派の画家、アルフレッド・シスレーはキャンバスに空を大きく描いた。彼にとって対象の中心は鮮やかな花や瑞々しい緑や光をきらびやかに写す水面ではなく、日々刻々と移りゆく空だった。そこには無限と無常を感じさせる何かがある。また、『戦争と平和』のアンドレイ公爵はフランス軍との戦闘において仰向けに倒れたとき、頭上に確固として存在する青空を見上げてその存在の絶対性と普遍性に激しく心打たれた。でも僕は空を見ていてそんなに強く心揺らいだことはない。たぶん、啓示というのは示される側にも何かを求めるのだろう。<br />　ふと子どもの遊び声が聞こえてくる。無邪気で、快活で、楽しそうな声。それはモーツァルトのディベルティメントのように聞こえる。そして僕に彼女と行ったクラシック・コンサートのことを思い出させる。メインはモーツァルトの交響曲三十六番『リンツ』で、彼女はその音楽に最大級の賛辞を送っていた。リンツ交響曲。優れた曲だ。モーツァルトはこの傑作を僅か四日間で完成させたらしい。彼の四日間に比べれば、と僕は思う、僕の二十五年間なんて折れたタクトよりも無価値だ。</p>
<p>「そこ、どいてくれる？」という女性の声が聞こえる。<br />　振り向くと、携帯用の折り畳み椅子に座ってキャンバスを持った女性が僕の二メートルほど後ろにいる。<br />「何故？」と僕は訊ねる。<br />　彼女はため息をつく。「この格好見てわからないの？　絵を描くときにあなたが邪魔になるからよ」<br />「なるほど」と言って僕は頷く。「いいよ。でも条件がある」<br />　彼女は露骨に訝しげな表情をする。「何？」<br />　僕は彼女の持つキャンバスを指差す。「その絵を見せて」<br />　彼女はひとしきり品定めをするように僕を眺める。神経質なしわが眉間に寄る。口元が頑固そうに固く結ばれている。似ている、と僕は思う。それは僕の胸をほんの少し震わせる。やがて彼女は諦めたように首を振ると、仕方ないか、と言って僕が提示した条件を受け入れる。僕は立ち上がって彼女の後ろに回り、その絵を見る。<br />まず目に付いたのは明るく鮮やかな色使いとかなり激しい筆致。下からやや上を見上げるような視点で、キャンバスの中央に空が広がり、その両脇を様々なタッチとトーンで描かれた新緑の木々が囲む。また画面下には鮮やかでカラフルに描かれた石段があり、その中央には麦藁帽子を被った子どもが二人並んで座っている。<br />「印象派が好きなんだ」と僕は言う。<br />　彼女は頷く。<br />「まだ空が未完成なのかな？」<br />　彼女は頷く。「もっと太陽の光を輝かしく表現したいんだけど、なかなかね」<br />　うーむ、と僕は唸りながらその絵を眺める。<br />「感想は？」と彼女は訊ねる。<br />「温かくて、優しい絵だ。僕がもっと若かった頃のことを思い出させる」<br />　彼女は僕の言ったことについて考える。また眉間にしわが寄るけれど、それはさっきよりも幾分神経質さが和らいでいる。やがて彼女は絵筆を握り空に色を塗り始める。僕は彼女の後からその姿をじっと見ている。彼女は特に何も言わなかったので、僕はそのまましばらく画家の創作を見続ける。<br />「ところで」と彼女は絵筆を動かしながら言う。「あなたが振り向くまでに二、三回呼びかけたんだけど、あなたは全く聞こえてないようだった。何か考え事？」<br />　僕は頷く。「シスレーとアンドレイ公爵とモーツァルトと別れた彼女について考えてた」<br />　ふぅん、と彼女はつぶやく。「どちらかというと混乱しているのかしら？」<br />「どちらかというとね」と僕は答える。<br />「それは彼女と別れたから？」<br />「さあ、どうかな？　そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。よくわからないよ」<br />「どうして彼女と別れたの？」<br />「特におもしろい話じゃないよ。芸術的霊感も与えられないと思う」<br />「構わないよ。芸術的霊感も啓蒙的教訓もいらない」<br />僕はどう言おうかと考える。どう言えばそこにある内面的な問題を正確に伝えられるだろうか？　でも結局僕は客観的事実を簡潔に言うことにする。自分に正確に説明できないことを他人に説明できるわけがないのだ。「一言で言ってしまうと、彼女が僕を棄てていったんだ」<br />「そう。何か言ってた？」<br />「僕との関係には先が見えないって言ってた」<br />「それで、あなたはそれについてどう思うの？」<br />「いったい先の見える人間がどこにいる？　と思う」<br />　彼女は筆を止めて考える。そして僕の方を振り向く。「ねぇ、私は思うんだけど、あなたは少し変わってるんじゃないかしら？」<br />「そうかな？　自分じゃよくわからない」と僕は正直に言う。<br />「そうよ。少なくとも私は深大寺の石段に座ってアンドレイ公爵について考えてる人間を見たことがない」<br />「改めた方がいいのかな？」<br />「必要無いんじゃない、別に。その意味をだいぶ拡張すれば、パーソナリティと呼べるかもしれない」<br />「逆の立場だったらどうする？」<br />「決まってるじゃない」と彼女は断言する。「即刻改めるわ」<br />　僕はちょっとショックを受ける。すぐに言葉が出てこない。<br />「冗談よ」と言って彼女は笑う。<br />　つられて僕も微笑む。実に久しぶりの感覚だ。そういえば、と僕は思う、心から笑ったのなんていつ以来だろう？</p>
<p>「さてと、そろそろ帰らなきゃ」と彼女は言って帰り支度をする。<br />　気が付くとあたりには黄昏の予感が満ちている。僕は彼女のてきぱきとした作業をぼんやりと見ている。慣れた手つきだ。<br />「深大寺にはよく来る？」と僕は訊ねる。<br />　彼女は頷く。「休日はだいたいいるよ」<br />「奇遇だね。僕もそうなんだ。でも僕は今日初めて君を見た。どうしてだろう？」<br />「見ることと認識することは違うよ」<br />「要するに、お互い視界に捉えていたとしても特に気に留めていなかった、ということかな」<br />　彼女は首を振る。「私は覚えてたよ」<br />　僕は彼女の言っている意味がわからない。でもすぐに理解する。「まさか」<br />「あなたくらい特徴的な外見と雰囲気を持った人は、深大寺に限らずそうはいないよ」<br />　僕は適当な言葉を探す。でも何も思いつかない。その間に彼女の準備は整う。<br />「さようなら」と彼女は言う。<br />「また会えるかな？」とほとんど反射的に僕は訊ねる。<br />　彼女は微笑む。でも何も言わない。そして振り返って石段を下りていく。僕は石段に座ってずっと彼女を目で追う。ふと僕は彼女の名前を訊いていなかったことを思い出す。もちろん僕の名前も伝えていない。<br />まあいいさ、きっとまた会える。<br />やがて彼女が見えなくなってからも僕はその場所にいる。深大寺境内はピークを過ぎたとはいえまだ賑やかだ。しかしそこには寺特有の静謐さが粒子のように散りばめられている。僕は目を閉じる。肌に風を感じる。瞼に夕陽を感じる。ここには彼女の微笑みの余韻がある。やがて僕はゆっくりと目を開く。そして空を見上げる。空は金色に輝いている。僕はそこに何かの啓示が見えたような気がしたけれど、それが何なのかはもう少し先になってから知る。</p>
<p>----------------------------------------------------------------- <br />　 <br />＜著者紹介＞ <br />吉岡　雄二 （東京都調布市／26歳／男性／公務員）</p>]]></description>
            <link>http://novel.chofu.com/2009/12/4-54.html</link>
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                <category domain="http://www.sixapart.com/ns/types#category">37_第4回応募作品紹介</category>
            
            
            <pubDate>Mon, 07 Dec 2009 17:48:10 +0900</pubDate>
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            <title>第5回深大寺短編恋愛小説　入選者発表</title>
            <description><![CDATA[<p>第5回深大寺短編恋愛小説『深大寺恋物語』公募における、入選作品、及び入選された方は以下の通りです。 </p>
<p><br /><span style="FONT-SIZE: large"><font color="#cc0000">＜最優秀賞＞</font> <br />「その次」　池野　仁美　様 </span></p>
<p><br /><font color="#cc0000">＜審査員特別賞＞ </font><br />「妖怪ポストのラブレター」　久保　真実　様 <br />「糸偏となぞなぞ」　霜鳥　つらら　様 </p>
<p><font color="#cc0000">＜調布市長賞＞</font> <br />「恋敵(こいがたき)」　板谷　朔　様</p>
<p><font color="#cc0000">＜深大寺特別賞＞</font> <br />「百年杉と斜陽と不発弾」　前山　尚士　様&nbsp;</p>
<p><font color="#cc0000">＜深大寺そば組合賞＞ </font><br />「そばとうどん」　三和　みか　様 </p>
<p>&nbsp;</p>
<p><br />おめでとうございます！</p>]]></description>
            <link>http://novel.chofu.com/2009/11/5-6.html</link>
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                <category domain="http://www.sixapart.com/ns/types#category">91_第5回公募について</category>
            
            
            <pubDate>Mon, 30 Nov 2009 14:41:52 +0900</pubDate>
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