大学に入って三度目の春、学生生活を惰性で過ごしていた自分に電流が走った。俺が所属しているサークルにマネージャーとして入ってきた一年生の志保(しほ)に、俺は一目惚れしてしまったのである。しかし女性に対してあまり積極的になれない性格が災いし、三か月経った今でも先輩後輩同士の事務的な会話しかできていなかった。そんな情けない俺に、サークルを通じて知り合った悪友の勝一が、得意のニヤニヤ顔で、
「縁結びに効果テキメンなとこが調布にあるんだけど、知っているか?」
と言ってきたのはつい数十分前のことだった。二限の授業を終えたばかりの俺は、なにかに背中を思い切り叩かれたような衝動に駆られ、学食のラーメンに手をつけないまま跳ねるように学校を飛び出していた。学校の最寄り駅の桜上水駅から電車、バスを乗り継いで、勝一に教えられた深大寺に辿り着いた。
今日(こんにち)この大都会と呼ばれる東京において、これだけの自然を有する場所も多くはないだろう。深大寺のバス停に降り立ったときの、俺の第一印象だった。真夏だというのに、生い茂る草木の生み出す日蔭はこの上なく快適で、俺は自然と目をつぶり、深呼吸していた。
ここに至るまでの電車やバスの中で、突発的に行動してしまった自分をどうかしていると嘲ったものだが、まあ、これだけ気持ちのいい場所が東京にあることを知れただけでもよしとしよう。バス停のある門から本尊らしき所まで続く道には、茶屋や蕎麦屋や土産物屋などの店が軒を連ね、なかなかに趣深い。石畳の道をゆっくり歩きながら、縁結びを抜きにしてもこんな場所に大切な人を連れてこられたら素敵だと、柄にもないことを考えていた。
 本尊の賽銭箱の前で財布とにらめっこする俺の姿はどれだけ滑稽であっただろうか。「十分なご縁」にかけて十五円入れようとするも、財布の中には十円玉一枚と一円玉が五枚。一円玉五枚でも御利益はあるのだろうかと思考はしばらく往来していた。結局六枚の硬貨をばらばらと賽銭箱に入れたが、一円玉が一枚賽銭箱に弾かれてしまった。縁起の悪い事この上ない。すぐに拾って再び投げこんだが、十四円と一円で認識されていたらどうしようなんてどうでもいい事が脳裏をよぎった。どうやら自分の恋患いは重症であると感じた。自分の情けなさに深いため息をついてから手を合わせ、願いを込める。頭の中では俺にこの重病を患わせた張本人の顔が浮かんできた。 
いまどき珍しい、というのは偏見であるかもしれないが、おとなしい感じの女の子で、マネージャーになったのも半ば強引な女友達の付き添いといった感じだった。しかしそんな日蔭的な彼女に俺は一瞬で心を奪われた。「キレイ」よりは「可愛い」という形容詞の似合うような容姿はもちろんだが、なにか本能的に心奪われるものがあった。しかしそんなおとなしい彼女とこんな俺だから進展も何もないわけで・・・
結局自己嫌悪の思考ループに帰結してしまったので、閉じた目を開いて祈りをやめた。
「あの、先輩・・・?」
 あまりの不意打ちに言葉を返すどころか声のするほうに目を向けることすらままならなかった。やっと振り返った視線の先には、首を傾げた志保が立っていた。志保は俺が自分を認識したのを確認し、少しはにかんで口を開いた。
「やっぱり先輩だ。どうしたんですか、こんな時間にこんな場所で?」
 当然の疑問だ。本来ならば俺はまだ学校にいて然るべき時間なのだから。
「いや、その、なんていうか・・・」
言葉が見つからない。本当の理由なんて言えるわけないが、ぱっとそれらしい誤魔化しのきく理由なんて出てこない。数秒まごまごしていた後、苦し紛れに答えた。
「こ、ここって蕎麦が有名らしいんだ。ほらその辺にたくさん蕎麦屋があるだろ。俺実は蕎麦に目がなくてさ、急に食べたくなったから・・・」
我ながらあまりに苦しかった。志保はきっと俺が手を合わせ祈っている姿を見ているはずだし、そもそも蕎麦が目当てなら本尊までくる必要はないのだ。俺が心中で猛省を繰り広げていると、志保はどうやら合点がいったようで、
「そうですよね、先輩が縁結びのお寺にお参りなんて、変だなって思ってたんです。」
と満面の笑みを浮かべて言った。この場をなんとか乗り切った安堵感と、恋愛と無関係と思われているという事実で、俺の心は複雑だった。そのおかげかオーバーヒート気味だった脳内は急速に落ち着きを取り戻し、『先輩と後輩』という間柄を強く意識させられた。
「わざわざ昼飯食わないで学校から飛んできたんだ。今から食べに行くけど、志保も一緒にどう?」
落胆を隠すようにすらすらとまくしたてた。社交辞令的に誘ってはみたものの、いまどきの女の子が蕎麦屋に誘われてついてくるなんてありえないだろう。断られて、この場で解散となるのが関の山だ。
「私もお蕎麦好きなんです。喜んでご一緒します。」
解散までの会話のシミュレーションをたてていた俺はまたしても志保に不意打ちを入れられまごまごしてしまった。恥ずかしい。
本尊から蕎麦屋まで歩く最中、志保の思いがけない承諾について考えていた。思えば先輩が後輩と飯を食べるなんて日常的にあることだ。逆にこの場で断ってしまうのも、後輩としては気が引けるところだろう。つまりは普通なのだ、なにか他意を、ほんの少しだけでも期待してしまった自分がまた恥ずかしくなり、隣を歩く志保に気づかれないように溜息をついた。
「お蕎麦屋さん、いっぱいありますね。どこにしましょうか。」
志保に聞かれてはっとなる。蕎麦を食べに来たなんてでまかせなのだから、当然何も考えていない。あたりをきょろきょろ見回して、最初に目に入った蕎麦屋を指差して、
「あっ、あそこにしよう。」
若干声を上ずらせながら志保を促した。
俺が苦し紛れに選んだお店は深大寺に並ぶ他の店の例に漏れず、純和風なたたずまいだった。周りを囲む緑と見事に調和し、清らかで優しい雰囲気を漂わせている。
「なんだかいいですね。ファミレスとかじゃ絶対味わえないような、すごく落ち着く感じ。」
とっさに決めたわりに志保も気に入ってくれたようである。中に入ると優しそうなおばちゃんが出迎え、空いている好きなところに座るように促してくれた。俺たちが木で作られた端っこの席に向かい合って座ると、さっきのおばさんが冷たいお茶を出しながら何にしますかとたずねた。正直蕎麦の善し悪しはわからないので、無難にざる蕎麦を二つ頼んでおく。おばちゃんはありがとうございますと一言告げ、奥に戻っていった。
 蕎麦を待つ間がもたなかった。なにしろ二人きりで飯を食べるなんて初めてだし、元々が女性とうまく話せない性格なのだから当たり前だ。しばらくの沈黙の後、そういえば、志保はどうしてここに来たの、と尋ねてみたが。志保は少しはっとしてから、後で教えますとだけ言って目線を外に逸らしてしまった。なにか気に障る事でも言ってしまっただろうかと不安になり、再度話しかけようとしたところで注文していた蕎麦が運ばれてきたので会話は終わってしまった。
「お蕎麦ごちそうになってしまってすいません。ありがとうございます。」
店を出たときに志保はぺこっと頭を下げると、律義に感謝を述べた。本当に、いまどき珍しいよくできた子である。まぁ、後輩に蕎麦くらい奢ってあげられる先輩でありたいものだし、美味い蕎麦を志保と食べることができたのだから、こちらこそお礼を言いたいくらいだった。
しばらくぶらぶらしてから、木陰の竹製のベンチに並んで腰かけて休憩していたが、どうしても志保とうまく話すことはできなかった。今さらだが、好きな女の子と二人きりなのだ。俺の脆弱な心臓は、さっきから早鐘をついている。なんとか話しかけようとしても言葉は俺の口から出ていくことは無く、
「先輩、さっきの話なんですけど。」
と志保から話しかけてくれなければ会話はできなかっただろう。
「ここに来た理由の話です。」
珍しく、なにか怯えたような、それでいて決意のこもったような眼差しがそこにあった。
「一週間前くらい前、勝一さんにここのこと教えていただいたんです。縁結びのお寺だって。それで今日ここに来ると良いことがあるって。」
 なにか、不思議な感覚が心の中で渦を巻いていた。複雑な数式を、公式にあてはめて少しずつ解いていくような高揚感と、それの真偽がわからない不安と、はやく答えを知りたい焦燥感。すべてが混ざりあって、俺は息を呑んで次の言葉を待った。永遠とさえ思えるような瞬間。刹那であったかもしれないその瞬間に、浮かんだのは馴染みのあるニヤニヤ顔だった。あぁ、そうか。全部お前の差し金か。いや、これがこの深大寺の力なのか。目の前の志保は今にも泣き出しそうになりながら必死で言葉を紡いでいた。言葉はもういらないと思った。根拠のない自信が俺を奮い立たせた。
真夏にも関わらず爽やかな木陰の中 
少しだけ震える二つの体躯(からだ) 
背中には涼しい風を 
胸には心地よい温もりを感じていた

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<著者紹介>
夜人(千葉県市川市/20歳/男性/学生)

今回も本当に多数の方にご応募いただき誠にありがとうございました。

第7回の応募総数は363作品でした。
(昨年は301作品でしたので、62作品増えました)

今後、事前審査及び最終審査を経て、「深大寺そばまつり」での授賞式となります。
正式な日程が決まりましたらまたご報告させていただきます。

尚、事前審査の結果につきましては、審査を通過した方にのみ、9月中旬頃までにご応募の際に記載いただきましたお電話番号へご連絡をさせていただく予定です。
個々の選考結果についてはご案内いたしておりませんので、事務局へのお問い合わせはご遠慮ください。

何卒よろしくお願いいたします。

 

深大寺短編恋愛小説実行委員会
実行委員長 大前勝巳

 一ヶ月程度、祖母と二人で暮した。
 年齢を深く重ねると、子供に戻ると云う。遠く幼い過去を取り戻すには、一度大きく息を吸う必要がある。地中海で素潜りをするダイバーの様に、胸いっぱいに青く綺麗な酸素をぎゅっと詰め込め、それからゆっくり、曖昧でぼやけた世界に沈み込んでいく。
 たぶん、祖母はそんな身支度を始めた頃だったのではないだろうか。
 それまで僕は祖母と長い時間を共にした事がなく、かといって疎遠でもなかったけれど、祖母が、どういう考え方をして、どんな風に生きてきた人なのか、まったくと云っていいほど知らなかった。(祖母が左利きだった事を今回初めて知ったくらいだ)ただ、祖父が他界してからめっきり元気が無くなったと、母が話していたのを何となく聞いていた。
 僕の仕事がそれほど忙しくない時期だったけど、通勤時間が長くなり、基本は寝に帰るだけになっていた。平日の祖母の世話はホームヘルパーに任せきりになっていた。

 一緒に住み始めて二週目の土曜日に祖母が、僕にお茶を煎れてくれながら、ポツリポツリと自分の事を、たわい無い噂話の様に語り始めた。
 祖母の若い頃や、祖父との出会い、共に住み始めたこの街の事。近所の悪ガキ(僕の父だ)を好きになっちまった娘(僕の母だ)のために、ちょっと外れにあるお寺にかけた願い。その結果生まれた兄や僕の事。
 祖母は時々、眠り込む様に目をつぶり、指を組んだ。大切に言葉を選んでいるのだろう。その言葉たちは、僕にも大切な意味を持つと思う。
「そのお寺って、どこにあるんだい?」
 引っ越してくる際にネットで確認した航空写真では北側に公園らしきものを見た覚えある。
「あんた、忘れちまったのかい? 小さい頃はよく行っただろ」
 首を振る僕に、祖母は皺を寄せて少し残念そうに微笑んだ。
「十分も歩けば、すぐさ。行ってみるかい?」
 祖母はちらりと茶の間から見える玄関に顔を向けた。その先には折りたたまれた真新しい車椅子がある。窓の外は梅雨の隙間で、カラリと晴れている。ちょっとした散歩には気持ちがよさそうだ。それにそのお寺にはかなり興味が出てきた。祖母がとにこやかに笑って頷いた。僕もつられて頷いた。
「いいよ。行こうか」
 さっそく財布をジーンズのポケットに入れ、車椅子を広げ玄関前に配置した。祖母はお茶をすすり、手鏡で髪などを直した。ゆっくりと左手で杖を支えに立ち上がって、ぎこちなく車椅子に乗り込んだ。
「うしっ」
 杖を車椅子のハンドルに引っ掛け、勢い良く玄関を抜けると、初夏の風と共に祖母の髪の匂いが鼻先をかすめた。当たり前だが、僕と同じシャンプーの香りだ。僕たちは家族なんだと、変な実感がした。
 太陽はすでに夏の光をふりかざしていたけれど、街路樹の影に入ると涼しい。新品のタイヤが軋ませながら小さな石を蹴飛ばして、なんだか面白い。偶然に二度三度と同じ石を跳ねると祖母が後ろを振り返った。
「橘さんの具合はそんなに悪いのかい?」
 橘さんというのは父方の祖父だ。その連れ合いは割と早くに他界したと聞く。僕はその女性を写真でしか知らない。大きく横にずれた小石を諦めた。祖母もそれに気づいていたらしく、微かに声を上げた。
「うーん。もう歳だからね。八十二歳っていったらまあ、あれだ。がんばってるよ」
 祖母は、にくにくしげに鼻皺を寄せて歯を出した。
「あたしは、もう八十五だよ」
 ちょっとだけハンドルを持ち上げた。
「ばあちゃんはまだ大丈夫だ」
 祖母はよろけた振りをした。母はその橘さん(僕はあまり好きじゃない)の面倒をみるために、札幌の施設に泊り込んでいる。橘さんの故郷の近所らしい。(北の出身を体現する肌の白さは、僕にも遺伝している)父は仕事があるため、東京にいるが、金曜の夜から土日にかけて、そこに通っている。
「今回は、あんたが来てくれて、本当に助かった。嬉しいよ」
 祖母が小さく頭を下げながら前を向いた。橘さんの容態が悪化した事と、気丈な祖母が入院から戻ってきたのが重なったのだ。本当は両親と住むはずだった。 
「んにゃ」
 もごもごと答えに戸惑いつつ、川橋を渡るため、小さな段を慎重に乗り越えた。すると祖母が綺麗に整備された川辺の奥の方を指差して、母と父が始めて口づけしたのがその場所だと教えてくれた。
 何でばあちゃんが知ってるんだよと聞くと、見ちまったんだ。と照れくさそうに応えた。
「あたしと同じ場所。なんでこんな所だけ似ちゃっのかって、なんだかね、むしょうに親子だなって感じたもんだよ」
 この秘密は、あたしとあんただけのものだ。と唇に人差し指をあてた。あんたが誰かに言ったらあたしは恥ずかしくて三途の川が渡れないよ。僕は照れくさく、かゆくなった頭を掻き毟った。
「ばあちゃん、それうまくないよ」
 祖母がくくっと小さく声を上げた。ハンドルを強く握って、歩を早めた。
「ああ、そこを右に曲がってな」
 言われたままに曲がると、急に視界の緑が多くなった。神社へ至る道なのだろう。温度が少し下がって空気が澄んだ気がする。
「そば屋がいっぱいあるんだな」
 ぐるりと辺り見渡した。道沿いには水車が飾ってある。
「深大寺のそばって云ったら有名さ。あんた、本当にものを知らないね」わざとらしくため息をついた。「なら帰りに食べていくかい?」
「いいね」僕は喉をならした。
「だけど、お会計はあんたが持つんだよ」
「えっ」
「デートでは女性に払わせるんじゃないよ。みっともない」
 祖母がくしゃくしゃに笑った。だけれども目は真剣だった。僕は少し混乱したけれども、一応苦笑いした。
「デートですかい」
「そうだよ」
 祖母はぎゅっと、胸の前で指を組んだ。

 境内に入る階段で、車椅子を横から持ち上げる為、ハンドルから手を離すと、祖母がここからは歩かせてと手を払った。杖を左手にゆっくりと立ち上がった。その歩みは何かを確かめる様にも、ただ弱っている老人にも見えた。
 階段を二段ほど上がった時に、不意に「あんた、お爺さんに似てるね」とつぶやいた。そういわれるのは初めてだった。
 首をかしげると、僕の腕を細い指でつかんだ。爪が弱々しく皮膚を引っ掻いた。気が付かなかったがマニキュアがうっすら塗られている。
「この間だけ、あたしゃ、あんたをお爺さんの若い頃だと思う事にするよ」
 境内の奥の木々から風が流れてきた。祖母の髪が揺れて、僕と同じシャンプーの匂いがする。
 ああ、そういう事か。と思った。何が『そういう事』なのか良く分からなかったけど、祖母が言った事がどこか分かった気がした。
 祖母ははにかみつつ、真剣な瞳で僕を見つめて、階段を一歩一歩踏みしめた。
 急いで車椅子を境内の入り口まで担ぎ上げ、戻って手を差し出した。祖母は指先でつつくようにして、ためらってから、それに応じた。手が冷たく細い。力を入れたら、冗談抜きに折れてしまうだろう。生きる力は弱まりつつあるのが嫌でも分かる。それは仕方の無い事だ。
「さあ、本殿へお賽銭を入れに行きましょう」
 車椅子は境内の端に置かせてもらい、祖母の手を引いて本殿に向かった。祖母は小さく息をすった。
「あたしはここで、あんたに良く似た人と結婚をしたいと願ったんだ。それから、あたしの娘が悪ガキと幸せになれるように、願った」僕は財布から五円玉を二枚取り出して、一枚を祖母に握らせた。
 祖母は大切そうにそれを賽銭箱に滑り込ませ、静かに手を合わせて一礼した。僕もそれにならった。祖母は長い間、頭を下げていた。

「さて。帰りましょう」
 境内の階段を下りたところで、車椅子に祖母を乗せた。祖母はふうと息をついた。僕は少しためらってから聞いてみた。
「今回は何を願ったんだい?」
 祖母は上目づかいにあごに手をあてた。
「さあね。自分の胸に聞いてみな」
「ん?」すこし考えてから、ドキリとした。
「夜中の電話は響くんだ。今度連れてきな」
 祖母の横顔を見た。肌が少し赤く艶めいている。まだまだ元気だなと振り払う様にかるく頭を振った。
「さて、そばを食べて帰ろうか」
 ハンドルに力を込めた。
「家に帰るまでがデートだよ」
 祖母がぴしゃりと言って、前を向き、指を組んだ。自然とほほ笑んだ。この時間だけは祖母の事だけを考えよう。あなたがいたから、僕がいる。ありがとうと。
「承知しております。お嬢さん」
 僕は財布の中身をちょっとだけ気にしながら、慎重に、とてもゆっくりと車輪を押した。

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<著者紹介>
佐藤 浩介(東京都町田市/29歳/男性/会社員)

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