第6回 短編恋愛小説「深大寺恋物語」 募集要綱

【募集内容】
関東有数の古刹である天台宗別格本山「深大寺」の発祥は、その名前の由来でもある「深沙大王」という神様にまつわる「縁結び」の物語に由来する、と伝えられています。「深大寺」という歴史あるお寺、その門前に位置する数多くの「そば屋」や「お土産屋」、そして「東京都立神代植物公園」をはじめとする、その界隈の「豊かな自然や花と緑」を盛り込んだ、現代のラブストーリーを募集します!

【応募規定】
◆Eメールでの応募を推奨。データは必ずワードもしくは一太郎で作成のこと。(メールに直接記入やPDFは不可)
◆A4サイズ1枚400字設定で、空白も含み10枚以内。必ず「横向縦書」。
◆原稿用紙を使用する場合は400字詰めの用紙で、清書であること。原稿と表紙は分け、原稿にはタイトルも含め、本文及びページ番号以外一切記載しないこと。
◆作品の表紙は公式HP(http://novel.chofu.com)からダウンロードしたものを使用。
◆表紙をダウンロードできない方は、原稿とは別に手書きの表紙を用意し、住所、氏名、年齢、性別、職業、電話番号、作品のタイトルを記載。
◆原稿には穴を開けず、表紙を除いてページ番号をふり、折らずに送ること。(FAXは不可)
◆一度提出した原稿の修正、並びに規定に合っているか等の問合せは不可。
◆応募点数制限なし。未発表作品に限る。

「規定の表紙」+「縦書400字設定済みの本文用フォーマット」をダウンロード「規定の表紙」+「縦書400字設定済みの本文用フォーマット」>(word)

募集要項をダウンロード募集要項>(pdf)


【応募資格】
不問

【審査員】
<村松友視>
1940年4月10日東京生まれ。
慶応義塾大学文学部哲学科卒業後、中央公論社勤務を経て作家となる。
1982年『時代屋の女房』で第87回直木賞受賞。
1997年『鎌倉のおばさん』で第25回泉鏡花文学賞受賞。

<井上荒野>
1961年東京生まれ。
成蹊大学文学部英文学科卒業後、出版社でアルバイト。
その後、大学受験生向け新聞のフリーライターに。
その傍らに書き上げた小説「私のヌレエフ」が第1回フェミナ賞を受賞。
2008年『切羽(きりは)へ』で第139回直木賞受賞

<清原康正>
1945年旧満州鞍山生まれ。
同志社大学卒業。文芸評論家。
著書に『中山義秀の生涯』、『小説を書きたい人の本―好奇心、観察力、感性があれば、小説は書ける! 』、共著に『昭和文学の風景』など。


【賞 金】
最優秀賞10万円(1編)、 審査員特別賞5万円、 調布市長賞 など

【応募締切】
2010年7月7日(水)13時(必着)

【発 表】
2010年10月もしくは11月に開催予定の「深大寺そばまつり」並びに「深大寺恋物語公式HPhttp://novel.chofu.com/」にて

【主 催】
深大寺短編恋愛小説実行委員会

【共 催】
深大寺そばまつり実行委員会・特定非営利活動法人 ちょうふどっとこむ

【協力(予定)】
アカデミー愛とぴあ・深大寺奉賛会・深大寺そば組合・じんだいフェスタ2008実行委員会・調布タウン誌182、J:COM調布・世田谷、調布エフエム放送株式会社・特定非営利活動法人 ・林建設株式会社

【後援(予定)】
調布市・深大寺・社)調布青年会議所・財団法人 調布市文化・コミュニティ振興財団・調布市商工会・調布市教育委員会・調布市観光協会・社会福祉法人 調布市社会福祉協議会・調布市文化協会、角川大映撮影所、日活撮影所、京王電鉄株式会社、京王電鉄バスグループ

【応募先】
〒182-0026 東京都調布市小島町2―55―1調布南コーポラス102
                (ちょうふどっとこむ内)深大寺短編恋愛小説実行委員会事務局
電話:042‐487‐4282 FAX:042‐487‐4280
E-Mail:novel★chofu.com(★部分を@に変更の上、お送りください)  

【諸権利】
入賞作品の出版権、上映権、映像化権等の諸権利全ては主催者及び共催者に帰属。また、主催者及び共催者は、全ての応募作品について、その作品をホームページ等で掲載させていただく権利を有するものとします。

【その他】
応募作品の返却はいたしません。 

 奈良時代(ならじだい)、ある美(うつく)しい娘(むすめ)が恋(こい)に落(お)ち、生(うま)れたのが満功上人(まんくうしょうにん)です。
 この満功上人(まんくうしょうにん)が深大寺(じんだいじ)を開山(かいざん)しました。
 深大寺(じんだいじ)は今(いま)、縁結(えんむす)びの神様(かみさま)として親(した)しまれています。

「地球まであと一循環(サークル)。すべて順調です」
 経過観察調査員のサルス・F・ベリは目を覚ました。

 量子計算機のジーチ(JCN)が、予定通りの時間に冷凍睡眠から俺を起してくれたようだ。

 一循環とは、地球の時間にして約七十五時間をあらわす単位。彼らの星は連星になっており、その星がお互い一回りするのにかかる時間である。
 彼らはこの時間を三つに分けて、一循環に三回寝起きをする。地球でいう三日を一循環にまとめて生活している。
 太陽が不規則に顔を出すこの星では、光でなく連星の影を感じて二十五時間の体内時計が働いている。

 一万循環に一回、我々は地球に経過観察調査員を送っている。
 地球時間でいえば約八十五年に一回の割合だ。今回が、百九十回目の経過観察調査(190調査)となる。
 188調査では「惑星全域交流レベル」までしか進んでいなかった地球文明が、前回の189調査で「飛行可能レベル」まで文明が進んだと報告された。現在は「大気圏突破レベル」まで文明が進んでいる可能性が高い。
 不安定な核融合エネルギーを使い、自らの力で自らを滅ぼす危険がある、文明進化の最も危険な時期にさしかかっているというわけだ。
 光子変換エネルギーを実用化して、「星系突破レベル」まで文明が進み、我々が正式なコンタクトを申し込むのは、次の191調査の後という事になりそうだ。その頃には、地球の知的生命体も我々と同じように、今の十倍くらい寿命が延びているであろうか。
 無論、それまで地球の知的生命体が自滅しなければ、であるが。

 地球は175調査の時に起こったある事件によって、誰も行きたがらない調査対象惑星となったいわくつきの星だ。
 その星に、文明レベルの中で最も危険な「大気圏突破レベル」の文明期に行きたい調査員などいない。
 だから、通常三人で行われる調査が、今回は特例として俺一人になった。

 俺が地球調査に名乗りを上げたとき、同僚たちはみな驚きの声を上げた。
 特別ボーナスがそんなに欲しいのかと嫌味を言われ、あるやつには物好きだなと笑われもした。
 お前の勇気は尊敬するが、頼むから無事帰ってこいよ、と本気で心配してくれるやつもいた。

 しかし、そんな忠告には意味がない。俺が今回この星に行く理由。それは、一人でこの星を調査できるからだ。

 俺は、175調査の時に起こった事件の真相を、ずっと追い求めてきた。フークマという上級調査員の失踪事件がなぜ起きたのか。
 通常の三人チームで行けば、勝手にこの「フークマの謎」を調べる事などできない。一人で行けるからこそ、この星へ行く意味があるのだ。
 だから、八十五年前の189調査にも応募せずに、その調査結果を精査するに留めた。今まで行われた調査結果は、すべて頭に入っている。特に、問題の175調査の結果は、暗記するほど検証している。


「ライラ、フークマは見つかったか?」
 175調査隊長カイマはライラ調査員に声をかけた。
「だめ、何の手掛かりもないわ」
「そうか、あいつはこの座標4282―182周辺にはもういないのか。どこに消えちまったのだ、まったく」
 カイマは一瞬考え、ライラに言った。
「とりあえず船に戻ろう」
 二人は、雑木林が広がる丘の上に浮遊している船に戻り、船の中を再び調べる事にした。船には、フークマの探査スーツや通信装置などが残されていた。
「あいつは何で、探査スーツを置いて外に出たのだ」
 隊長のカイマは、ライラに苛立ちをぶつけるように聞いた。
「この星の高知能生命体は我々とDNA的に非常に近いから、探査スーツを着て姿を消さなくても、不審に思われる事はないと思うけど」
 ライラは、カイマを見ずにそう答えた。
「だからって、現地知的生命体に姿を見せるのは観察規則違反だぞ。そのうえ武器カプセルも持たず、持って出たカプセルは言語補助と医療補助、後は浮遊装置の三つが入った箱だけだ」
 カイマには理解できない事だらけだ。
 ライラとカイマが船外調査を行い船に戻ってくると、船内待機しているはずのフークマは姿を消していた。
「ジーチ、フークマは外に出る前、ただその湧水のあたりを映しているモニターを見ていただけなのだな。」
 船の量子計算機に向かい、カイマは問いかけた。
「間違いありません」
 量子計算機の答えは、常に簡潔である。


 銀河系の端にある、地球という辺鄙な星を有名にしたのは、175調査のとき、調査員が一人行方不明になったからだ。
 その上級調査員だった男の名から、その失踪事件は、「フークマの謎」と言われている。

 地球時間の千三百年前に行方不明になった、俺の「じいさん」にあたるフークマ失踪の理由を知ることが、190経過観察調査の本当の目的だ。
 俺がフークマの孫だって事はずっと秘密にしてきた。
 俺の母親が生まれる前に消えた男フークマ。
 「ばあさん」は、自分の生んだ子がフークマの子供だとは誰にも言わずに娘を育てた。父親のフークマ自身も、その事を知ることなく姿を消した。
 「ばあさん」は俺にだけ、その秘密を教えてくれたのだ。
 
 事故でもなく、最優秀の調査員が煙のように姿を消した。調査員の間では伝説となっている謎だ。
 「地球人と話をする、ケガを治す、空を飛ぶ」この三つの事ができるカプセルを持ってフークマは姿を消した。
 この謎は俺が解いてみせる。
 「ばあさん」は「じいさん」の謎を解けるのは俺しかいないと信じて、教えてくれたんだからな。
 いなくなった「じいさん」に、お前が一番似ていると言って笑っていた「ばあさん」の願い、俺が叶えてみせるぜ。

 今から約六百年前の183調査の報告によると、その時フークマ達の船が停船した丘は深大寺城という城になっている。
 とりあえず、その城の近くに船を隠して調査をする事にしよう。
「ジーチ、地球座標4282―182へ向かってくれ」
 サルス・F・ベリは量子計算機に指示を出すと,「フークマの謎」に思いをめぐらせた。

 福満(ふくまん)とある豪族(ごうぞく)の美(うつく)しい娘(むすめ)が恋(こい)に落(お)ちました。
 娘(むすめ)が、湧水(わきみず)を汲(く)むとき足(あし)を滑(すべ)らせ大(おお)ケガをしたところを助(たす)けてくれたのが、医者(いしゃ)の福満(ふくまん)でした。
 娘(むすめ)の両親(りょうしん)は、どこの馬(うま)の骨(ほね)ともわからない渡来人(とらいじん)の福満(ふくまん)には娘(むすめ)をやれないと、二人(ふたり)の仲(なか)はさかれました。
 娘(むすめ)は湖(みずうみ)の小島(こじま)に連(つ)れて行(い)かれ、二人(ふたり)は会(あ)う事(こと)ができなくなってしまいました。 しかし、福満(ふくまん)は霊亀(れいき)の背(せ)に乗(の)り、島(しま)へ渡(わた)りました。 
その事(こと)を知(し)った娘(むすめ)の両親(りょうしん)は、福(ふく)満(まん)の不思議(ふしぎ)な力(ちから)に驚(おどろ)き、これはきっと深沙大王(じんじゃだいおう)さまのご加護(かご)だと、二人(ふたり)の結婚(けっこん)を認(みと)めました。
 深大寺(じんだいじ)を開山(かいざん)した満功上人(まんくうしょうにん)は、この二人(ふたり)の息子(むすこ)です。

 

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<著者紹介>
大澤 信明(東京都世田谷区)

「もりそば二丁!」
「かけ大盛り、ざる一杯、入ります」
僕はひたすら、蕎麦を湯に入れる。、蕎麦のストックもなくなってきた。隣の作業場で親方が打った蕎麦を調理場に移す。只今、木曜日の午後十二時十五分。深大寺の参拝客が昼食にやってくる佳境の時間。息つく暇もなく、蕎麦を湯に入れ、茹で上がったものを次々と食器に盛っていく。
「もりそば、お願いします!」
店にいるおかみさんに僕が声をかけると、もりそばを両手に抱えながら、
「ごめん。テラス席の食器、片付けに行ってくれる?私、ちょっと手が回らないのよ。」
おかみさんもてんてこ舞いだ。僕は調理場から出て、テラス席のテーブルを片付けていた。
「あの、すみません。ここいいですか?」
後ろから声が聞こえた。
「どうぞ。今、片付けます。」
そう言って僕が振り返ると、若い女性が立っていた。長い黒髪をきちっと束ね、色白で小顔な細身の女性。僕はその女性の凜とした美しさにしばし我を忘れたが、次の瞬間、何もなかったかのように、彼女が座るテーブルを片付けた。
「今、お水とメニュー、お持ちします。」
「メニューは結構です。もりそば、いただけますか?」
「承知しました。冷たいお水、今、持ってきます。」
僕は店に戻り、彼女の水をコップに入れる。普段の接客と同じことをしているはずなのに、なぜかどきどきする。僕はグラスの水を彼女のテーブルに運び、調理場に戻った。次々入ってくる注文のことは上の空。気がつくと、僕はデッキ席の彼女を眺めていた。
 只今午後二時三十分。蕎麦屋の嵐のようなランチタイムが終わり、休憩に入るのはいつもこの時間。僕は、深大寺の境内のベンチに座り、缶コーヒーを一口飲むと、広く多い茂った緑を眺め、大きく息を吸った。ここにくると、心が穏やかになり、自然と活力が蘇る。僕のいつもの休憩タイム。そのとき、少し離れた隣のベンチに、誰かが座る気配を感じた。さっき、蕎麦屋のデッキ席でもりそばを食べていた女性、凜とした美しさに僕が一瞬心を奪われたあの女性が、隣のベンチに座っていた。僕は勇気を振り絞って声をかけた。
「先ほどは、どうも」
彼女は一瞬、ぽかんとして僕を見ていたが、
「あ、さっきのお蕎麦屋さん?こちらこそ、ごちそうさまでした。もりそば、美味しかったです。」
彼女は笑顔で答えてくれた。
「今まで拝観ですか?」
「いえ、写経教室です」
シャキョウ?僕は意外なワードに一瞬、面食らった。
「写経だなんて、渋いですよね。でも、はじめてみたら、すごくはまっちゃって。お経の文字をただ書いていくだけなんですけど、癒されるというか、落ち着くというか。」
彼女は笑って言った。
「じゃあ、僕が毎日ここでこうやってぼーっとしているのと、同じようなものですね。」
僕は笑い返した。
「僕はここに来ると落ち着くんです。田舎を思い出します」
「田舎?」
「長野です。戸隠っていう蕎麦の産地で、僕の実家、蕎麦の実を作ってるんです」
僕は聞かれてもいないのに、無意識のうちに自分のことを話していた。
「長野は、空気も水もきれいです。だから、美味しいそばが獲れるんです。実家の蕎麦もうまいんですよ。あの蕎麦屋に実家の蕎麦を入れさせてもらっていて、そのツテで、僕は三年前からあの店で蕎麦の修行を。」
「素敵ですね。きっと立派な蕎麦職人になられますよ。」
そう話す彼女の横顔は、凜として、優しくて、美しい。
「そろそろ行かなくちゃ。」
彼女の声でふと我に返る。彼女とは、こんな風に偶然に会うことなど、もうないかもしれない。
「写経教室にはしょっちゅう来られているんですか?」
僕は冷静を装いながら、次、彼女と会う機会を探る。
「ええ。写経教室は毎週木曜、やっているんです。私もしばらく通ってみようかなって。」
「だったら、また、うちの蕎麦、食べにきてください。」
僕は必死だ。
「もちろん。あのお蕎麦、本当に美味しかったですもの。また伺います。」
彼女は微笑んで、去っていった。
 僕は、その後ずっと、あのときの彼女の横顔が忘れられなかった。正確に言うと、どんな顔立ちだったのかはぼんやりとしか覚えていない。ただ、あの凜とした美しさは僕に強烈なインパクトを残しており、気がつくと、そんな彼女の面影を自分の心に刻もうとしているのだ。
「最近、なんだかぼーっとしているね。好きな女の子でもできたのかい?」
蕎麦屋のおかみさんにも冷やかされっぱなしだ。僕は、写経教室があるという次の木曜日が待ちきれなかった。彼女にもう一度会いたい。名前も、歳も、どこに住んでいるのか、何をやっているのかも知らない彼女に。しかし、次の木曜日も、その次の木曜日も、彼女は僕の前に現れなかった。
 彼女と初めて会ったあの日以来、もう1ヶ月近くが過ぎようとしている。最近の僕は、すっかりあきらめモードだ。そんなある日の正午すぎ、蕎麦屋はいつものとおり、お客さんでごったがえしていた。
「ごめん。デッキのテーブル、片付けてきておくれ」
おかみさんに言われ、彼女が初めて店に来たときと同じように、僕はテーブルを拭いていた。
「すみません。ここ、いいですか?」
僕の背中越しに、かすかに覚えのある声が聞こえる。振り返ると、そこには、凜とした美しい彼女がいた。
「あの、ここ、いいですか?」
呆然として何も返事をしない僕に、彼女はもう一度、そう言った。
「あ、どうぞ。」
やっと我に返った僕に、彼女は少し笑かけながら、こう言った。
「もりそば、お願いします。」
僕は調理場に戻ってからも、興奮気味だった。
これは現実なのか?あの女性が彼女だとして、僕のことを覚えているだろうか?彼女とまた会えた興奮と同時に、たくさんの不安が僕の頭をよぎる。しばらくしてデッキに目をやると、彼女は、自分がオーダーしたもりそばを美味しそうに食べている。僕はそんな彼女をしばらく見つめ、やっと意を決した。今だ、今しかない。
 もりそばを食べている彼女のもとへ、僕はつかつかと歩いていった。
「あの・・!!」
僕の唐突過ぎる声は、店中に聞こえるくらい大きかった。彼女の箸は蕎麦を口に運ぶ手前で止まっており、面食らった顔で僕を見上げている。
「あ、すみません、お食事中なのに。」
僕は、恥ずかしさで、頭は真っ白、顔は真っ赤だ。すると、彼女は、
「また、もりそば、食べにきちゃいました」
茶目っ気たっぷりに笑った。僕のことを覚えていてくれたのだ。うれしさと安堵で、僕のひざは崩れそうだ。一息ついて、少し落ち着こう。僕は大きく息を吸って、こう言った。
「僕、2時半に、境内のベンチで待ってます。前、お会いした、あの場所で。」
緊張でパニック気味の僕を見る彼女は笑顔だった。
「はい。写経教室が終わったら、立ち寄りますね」
 只今、午後二時二十五分。境内のベンチで、いつもの缶コーヒーを片手に、僕はかなり舞い上がっている。
「お待たせしました。」
僕の背中からあの声がした。彼女だ。僕は、平静を装って、こういった。
「しばらくお会いしていませんでしたよね。」
「写経教室、さぼっちゃってましたから。仕事でニューヨークとロンドンに。個展をやっていたもので。私、これでも一応、書家の卵なんです。」
ニューヨーク?ロンドン?ショカ?
僕と彼女は別世界だ。蕎麦屋の修行小僧とショカでは、格が違いすぎる。
「なんか、すごいですね。すごすぎて、僕にはよくわからない世界です。」
ショックさめやらない僕は、やっとその一言を発する。すると、
「私にもぜんぜんわからない世界です。」
彼女はいたずらっぽく笑った。
「写経のほうがずっと楽しいです。何も考えずにただ文字と向き合えるのが。だから、日本に帰ったら、真っ先にお蕎麦を食べて、写経に行こうって。それだけを楽しみに、仕事してたんですよ。」
彼女の笑顔が、僕にはまぶしくて、うれしくて、愛おしくてたまらない。もっと彼女のことを知りたい。僕のことも知ってほしい。そんな感情がどんどん湧いてくる。
 そのとき、僕は、はっきりわかった。僕は、彼女に恋をした。

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<著者紹介>
松岡 由希子(東京都世田谷区/35歳/女性/自由業)

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主催

深大寺短編恋愛小説実行委員会
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たくさんのご応募お待ちしております。

現在、第6回深大寺恋物語募集事業事前審査員を公募しています。募集要項をご覧の上、ご応募ください。

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ブログにて紹介させていただいております作品は、第一次審査を通過し、且つ、メールにてご応募いただいた方の作品のみを掲載させていただいております。 何卒ご了承ください。
また、下記ミラーサイトにてレビューも公開しております。
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