<第11回・公募作品>「あなたの夢の実現と幸せを祈ります」 著者:いち子聡

 「ごめん。俺、里香とは付き合えない。別に里香が嫌いなわけじゃない。このままっていうか、友達のままでいたい」友達のままか。人を振る時のお決まりに聞こえる返事。今日里香の中での成功の確率は五十パーセントぐらい。だけど自信はあった。でも彼からの返事は「ノー」。告白の帰り道、里香は雨が降る中、家の近所にある深大寺へ歩いて行った。山門をくぐり、本堂にお参りする。告白前も来た場所。雨のせいか人もまばらだった。今日は結果を報告するためだ。ダメだったことを。涙は出てこなかった。雨が里香の代わりに泣いているようだ。
 里香の告白の相手は金田。高校の同級生だった。大学は別になってしまうので、卒業後に金田に会った時と決めていた。それが今日だった。高校の卒業式を終え、大学の入学式前の春休みで、最初に金田と会った日。里香としては告白するタイミング、その他諸々の、高校時代とは違う、メイクとか、洋服とかの準備も抜かりなかった。そもそも里香と金田は高校時代から、「友達」として、学校外で頻繁に会う程仲がよかった。金田だって里香に告白される前から里香の気持ちに気が付いていたはずだし、金田には現在、付き合っている女の人はいないはずだ。振られるということがこれ程ショックだったなんて。里香の心はずっしりと重い。だから深大寺までの足取りも重かった。振られたことには一定のショックはあるものの、里香は諦められる気がしなかった。深大寺へ報告の際に、「また告白したいので、力を貸してください」とお参りする。里香は告白前よりも倍の時間をかけてお参りをした。里香は深大寺とその周辺は、「近所に住んでいるから」という理由以外で詳しい。それが里香と金田との『友達』のきっかけだったから。
 里香と金田の通っていた高校は調布市内にある。二人は高校で一年生の時に同じクラスだった。文化祭でクラス内の出し物を決定する時、自分達でシナリオを書いて映画を制作しようという話になった。その際ロケ地として利用したのが深大寺と神代植物公園だった。映画自体は素人の高校生で制作したので出来はよくなかったが、この準備を通してクラスの全員が仲良くなり、里香は金田と特に仲良くなった。文化祭の準備のため、深大寺周辺に二人で下見に行ったりもした。金田はクラスのリーダーから場所の確認を頼まれたが、そもそも深大寺と神代植物公園について全く知識がなかったようなので、里香はインターネットでも調べて金田のアシスト作業に徹した。小さい頃からしょっちゅう来ている場所だったし、ネットで調べて知識にも自信があった。資料を金田に渡すと、金田はそれをすごく喜んでくれ、里香に対して、びっくりするぐらいの感謝をしてくれた。「いやぁ、俺調布にずっと住んでいるけど、深大寺のこと全く知らなかったからさ、本当にありがとう」と、何度も何度も里香に言ってくれた。これを機に二人の距離はぐっと縮まったのだ。金田が里香に「必死に感謝」する様子が、とても人として尊敬できると思った。文化祭が終了する頃には、里香は金田に恋愛感情を持つようになった。何より、深大寺は縁結びや、パワースポットとしても有名で、それがきっかけでの片思いであり、里香は金田に対して運命を感じずにはいられなかった。
 金田は元々男女問わず、人に優しく接するタイプで人気者だった。里香は一年生のときに仲良くなって、二年、三年とクラスは違ったが卒業までずっと仲が良かった。金田は里香と話すときに他の男友達と同じ扱いをしなかった。ちゃんと『女子』としての扱いをしてくれた。それがとても嬉しかった。金田のことをいいと思っている女子は他にもいたが、その中でも一番優先されていたのも里香だったことは自身がよく知っている。一年の時の文化祭終了後も時間が合えば一緒に登下校したり、調布駅周辺でお茶をしたり、デートのようなことも沢山してきた。一度だけ文化祭のあと深大寺に二人で来たこともあった。その時は二人で鬼太郎茶屋に入って土産売り場をうろうろした。あのときソフトクリームを食べたっけ。本当にデート気分を味わえた。金田が買っていた妖怪のキーホルダーをこっそり真似して里香も買った。バレないようにカバンの隅にいつも入れていた。勿論金田は知らない。二人だけの秘密みたいでこのキーホルダーはこれからも捨てられそうにない。
 里香と金田は受験期に同じ予備校に通っていた。偶然一緒になった。予備校には里香のライバルの女子がいた。彼女は隣の高校の制服を着ていた子で、同じ制服を着た男子といつも一緒にいた。名前は確か詩織。詩織の「彼氏」と思われる男子と金田は中学の同級生だという。里香は予備校に通っている間、不安でたまらなかった。詩織と彼氏の間に金田の入り込む隙なんて里香の目から見てもなかった。里香は金田の視線の先を見ると、怒りやら嫉妬やらが入り混じった気持ちになり、ヤキモキした。その度に詩織は深大寺にお参りし、気持ちを落ち着けたものだった。いや、縋る思いだった。そして、受験日近くになり、金田からメールがあった。「深大寺ってパワースポットで有名だよね?」と。話を聞くと、どうやら金田は詩織とその彼氏の三人で深大寺に合格祈願に行くという。里香も誘われたが、その日が予備校で欠席できない授業があったため遠慮した。かえってほっとしている自分がいた。里香と金田の思い出の地に他のカップルが混ざるなんて、と胸が締め付けられる思いがした。受験勉強に打ち込み、なんとかこの気持ちを乗り切った。そして卒業式前、金田と詩織、その彼氏が皆同じ大学に行くことになったと金田本人から聞いたのだ。
 雨は止む様子がない。寒い。里香は傘をさしながら深大寺から自宅へ歩いて帰る。ふいに涙と鼻水が出てきた。すると突然雨が強くなった気がした。傘をさしているが靴は勿論、今日の金田の為の、キメキメの洋服も顔のメイクも雨でぐちゃぐちゃだ。もう涙なのか雨なのか自分でも分からなくなり、家に着く頃には泣きながら笑っている自分がいた。
 告白して玉砕した日から三日後、里香と金田は深大寺で待ち合わせをした。里香から誘ってみた。断られるかとも思ったが、金田の「友達として」という言葉に嘘はないようだ。特別ぎくしゃくせずにお互い話ができた。ちょうどお昼時だったので二人で深大寺の蕎麦屋へ入る。里香は金田に振られてからの三日間で考えたことを話すつもりだった。近くに座っている客もおらず、里香は思い切って金田に言ってみた。「いつになるか分からないけど、ううん、何年後かも分からないけど。私はまた金田に告白すると思う」蕎麦をすすっていた金田は里香の『再告白』にびっくりし、むせたようだ。むせながら、「気持ちは有り難いと思う。というかありがとう」と言うのがやっとのようだ。金田は自分の食べているざるそばを見つめながら、ちょっと悲しげに、「いつも里香のことは有り難いと思っているし、これからも『友達として』なら尊敬し続けられると思う。俺は」里香も蕎麦をすすりながら金田の話に聞き入る。『友達』ばかりを強調され、涙が出そうになった。ごまかす為に慌てて鼻をすする。蕎麦を食べるのに集中しているフリをした。そして「うん」と短い返事を金田にしてから、「私も金田のことはずっと尊敬しているよ。きっとこれからもこの気持ちは変わらないと思うから」金田も短く「うん。ありがとう」と笑顔で返事をした。続けて、「でも本当に今は里香の気持ちは受け入れられないよ。恋愛感情はないよ?」「うん、だって金田はあの詩織ちゃんて子が好きなんでしょ?」金田は少しびっくりしながら、「バレてたか。確かにそうだった。でも彼氏もいる人だし。もう未練もない」と言った。また、金田は、「俺、予定では大学在学中に留学する。アメリカの大学に」突然切り出した。「それで留学の費用は自分でなんとかしろって親に言われているからサークルよりもバイトに力を入れていくつもりなんだ。今日も夜、バイトの面接。正直に言うと、今までみたいに里香とは会えないと思う。お互いの大学も近くないし」金田は悲しそうな顔で里香に言った。金田のことだ。嘘じゃない。里香を避けたいから言っているのではない。知っていた。留学のことは高校時代にも何回か聞いていたから。そんな金田を尊敬しているし、好きになった。「ごめん」金田がつぶやく。「ううん。でも金田のことはずっと好きだと思う」金田はまた悲しそうな表情で里香を見る。里香は慌てて「あ。でも大丈夫! 私も充実した大学生活送りたいし、バイトもサークルもしたい。お互い大学に入ったら、今までみたいに会ったりするのは難しいと思う。それは分かってる。でも、何かあった時は連絡してもいいかな? 会ってくれなくてもいい。電話でもメールでもいいから。私も金田に何かあった時は相談にのれる人でありたいし。その時は連絡して。それで、もし、何年か経った時に私の気持ちが変わっていなかったら。その時はまた金田に告白させてください」里香はいすに座ったまま丁寧に金田におじぎをした。涙は出ない。里香の最初で最後の精一杯の強がり。金田が消えそうな声で「ありがとう」とだけ言った。いつの間にか二人とも蕎麦を食べ終えていた。「帰りに深大寺へお参りしていこう」金田は里香に言った。金田と並んで歩いているとき、彼のカバンにキーホルダーがついているのを発見した。あのとき買ったお揃いの妖怪キーホルダー。金田は知らないが里香も持っている二人だけの秘密。里香は今の気持ちに強がりだけじゃないものを感じだ。やはり好きな気持ちは変わらない。さらに振られてへこむかと思ったが、里香は思いの外気持ちが晴れ晴れとしていた。里香はお参りで金田の倍の時間、彼の夢の実現と幸せを祈った。

いち子聡(東京都)

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