<第5回応募作品>「いつも素直になれたら」 著者: 當眞 嗣乃

 雨。境内。緑。好きなだけ眺めている。感じている。彼は時間の感覚を無くす。在るとすれば、世界の境界も無くす。私を夢中にさせる。
遠慮がちに弱く優しい速さで落ちて来る水。その粒は透き通っていて、無言のくせに踊るよう。濡れて、潤う。色を縁取り、映るそれがより濃く見える。そして私は、しっかりと意識が在るはずなのに、温度が感じられなくなる。水路に流れる水の音。誰かが歩いて響く砂利の音。それと中学生だろう団体へ、何か説明をしている穏やかな声が聞こえた。
説明が終わったらしく、家に帰るまでが遠足です。と背の低い男子生徒が言っていた。

いつもこんなに鮮やかに過ごせてたらいいのに。

「そう、思ってるんでしょ?」康成の隣にしゃがみ、滴る葉を見つめながらそっと呟いた。
「何?いきなり?」
「...。」
詩的に描いた私のイメージは、康成のそっけない一言にあっさり砕け散った。雨だから出かけるのを渋った私に、「雨だから、雨の方がより一層きれいだから、雨の日じゃいないと味わえない雰囲気があるから」なんて言われて、必要以上に浮かれていた私は恥ずかしくなって腹が立った。そんな気持ちを知らない康成は続けやがった。
「あーもしかして、植物見つめる自分って素敵って思ってるかってこと?買い物とか、買った商品を使ってる自分想像して、その自分が素敵だと思うから買い物するって話。気にしてんのか?」
宣戦を布告しているのか、単に天然なのか、とにかくイラっとした。
「違うわよ。確かにその話は聞いた時イラってしたけど、そうじゃなくて...、そう...じゃなくて、なんで雨なのに来たのよ?あーそう言えば前に来た時も雨だった。」
どう違うかについて私は説明出来ないと悟って話しを変えた。それとなぜ夢の無いことばかり言う康成がお参りに誘ったのかも気になった。
「あー、雨だったねー。図書館閉まっていたときでしょ?」
そうだった。その時は先に図書館に行こうと誘われて、なんと図書館は定休日だった。一週間のうち一日しかない休みの日を引き当てる強運に感心した日。振り回すくせにまったく無計画!が、私の時間を振り回し始めた記念すべき日。
「雨なんて気にならないけどね。」
えっへん!と書いてある顔だった。
「いやいや、そこじゃないよ?定休日だったことが問題なんだって。それにいくら気にならないからって、天気予報くらいは見なさいよー。」
「おっなんだなんだー、乙女特有の昔のこともひっくるめて不機嫌になっちゃうぞーってやつかー?」
 まだ言いたいことがあったけれど、割り込まれてしまった。
「そうやって女ってそういう生き物なんだろ?って決めつける人、モテないわよ。」
「べっつに良いもん。モテたくてモテそうな性格にする人より、ワガママの方がモテるんだもん♪」
 いつもあー言えばこー言うで皮肉なんて通じない。それと結局はモテたいと言っているのか、考えるのが面倒になってきた。それに康成の予測通りに不機嫌になるのは、かなり嫌だ。
「そう言えば話変わるけど、そんな風に昔から気取らなかったわよね?康成は。ぜんっぜんっ可愛くないけど。それに普通彼女にモテないよって言われたら、『君以外に好かれる必要がないからー』とか『君ならそんな僕でも好きでいてくれるよね?』なんてセリフを言うところなんじゃないの?そのまったーく気取らない潔さは見習いたいと思うわ。」
結局いつもの様に、そんな康成が好きよって伝わって欲しいと思いながら言った。
「そうだ、実はさ、そのことなんだけど...。」
珍しく照れている?様子だった。
「さっきもごめんね。」
少し間を置いて康成が謝った。私は全く意味がわからなかった。そりゃ彼の言動はいつも予想外だけど、謝っている、何を?康成はいつもよりも少し優しい声で続けた。
「前に来た時の帰り際、覚えてる?」
「う、うん。そりゃ初めて...、手繋いだし、覚えてるよ?抱きしめてくれたことも...。」
当時と同じでなんだか恥ずかしくなった。
「ハンドとホールドのスペル、最後が同じDで面白かったよね。」
「うん、でも、それと謝ったわけがわからないんだけど...。」
なんだか不安になってきた私を他所に、あっさり答えくれた。
「実はさ、百合がさっき聞いた『そう、思ってるんでしょ?』だけど、実はさ...、なんて言うのか、その...よっ横顔があんまりきれいだったから、その...。素敵なこと考えてて、二人同じこと考えてたら素敵だなぁって思ってる気がして。でも誤魔化した。...気取らないんじゃないんだ。本当は恥ずかしいから、そうだなぁ...、隠してるだけなんだ。だからごめんね。」
 いきなり過ぎて、私はあまり意味がわからなかった。でも、精一杯照れ隠しをしている表情に恥ずかしくなった。
「そう、そうなんだ。でもこんな恥ずかしいこと言えるんだから、もう心配ないじゃない?でも、なんか...ありがとう。」
 康成は立ち上がった。
「ここは神様がいる所だから、皆いつも以上に素直になれると思うんだ。きっと。」
 私は濡れている葉っぱを見つめていた。
「私もそう思うよ。そうだっ、康成さっき神様には何をお願いしたの?」
今なら私も素直になれる気がする。
「うん?これからも、仲良く過ごせます様にって。前回も叶ったから、今回も叶うよ。」
「前に来た時のはもう叶ったんだ?」
「うん。あの時は帰り際にね。」
「えっ?なら、あの私にしたお願いって神様に願ったことだったの?」
「あ、ううん、ちょっと違うよ。勇気を下さいってお願いしたんだ。なかなか可愛いよね?俺も。」
 科学だって自分で実際に体験したことじゃないと完全には信じない、なんてことを言うくせに。
「なんか私よりロマンチックね。それにあの頃ここが縁結びのお寺だって知ってたんだ?...まぁ今回のお願いも叶えてあげるよ、神様と私で。また来ようね。雨でも良いよ、ここなら。」
 何かに頼るなんてことを嫌うこの背中が、神様に願ってくれること。それが嬉しかった。
 康成は手を差し伸べ私が出した手を強く掴むと、私が立ち上がるのを待たずに歩き出した。弱く優しい雨の中。
「おう。」
「でも...今度はお礼にね。自力でプロポーズした後で。」
 急いで立ち上がり、康成が濡れない様に傘を向けた。
「でも?なに、なにか言ったの?」
「うんん、なんでもないよ。」
「何よー。言いなさいよー、素直になれる所でしょう?」
もっともっとあなたの気持ちに触れたいんだから。

バスに乗り、私は駅に着くまで夢を見た。初めて来た頃の夢を。帰り際にしか素直になれないのは、今も変わらないなぁと少し笑って愛おしくなった。

「あのさ、お願いがあるのだけど...。」
「え、なに?神様じゃ叶えられないこと?...あっ朝ならちゃんと間に合う様にするよー。待ち合わせ遅れるのは悪いなって思っちゃいるんだから。」
「...それもそうなのだけど、宮川には無理でしょ?それじゃなくてさ...。」
「無理って言い切られると辛いなー。あっ俺もお願いあるよ!そう言えば。」
「え?そうなの?なになに?」
「あ、うんでもねー言わなくても良い様な、むしろ言うと変な様なぁ、うーんまだ良いや。で、樋口のお願いはなんだよ?」
「い、言わない。」
「なんだそれ?言ってくれなきゃ俺には叶えてやれないだろう?つーか気になるよ。」
「私も言わなくても良い事かもしれない...。」
「おーそうかぁ、その気持ち、よくわかるよー。で?でもなに?...そうだ、ヒントは?」
「ヒント?」
「そうヒント。俺のお願いも言うより気づいて欲しい感じするし、まぁヒントから言ってみーよ。」
「う、うん。ヒント...、あっ最後がDで終わる四文字だよ!」
「次のヒントは?」
「早っ、ヒントは終わりでーす。」
「えーそれだけじゃわからないよー。あっ、でも俺のお願いも最後Dで終わる四文字だ。Dで終わる四文字ってたくさんあるんだね。」
「そうなのかなぁ?たぶん違うと思うけど。」

 結局、私は最後まで答えを言わなかった。でも康成がホールドを白状し、抱きしめてくれた後、恥ずかしそうに言った『それじゃ、手繋いで帰ろう』に驚いた。
だからきっと、二人の願いは全て伝わるのだろう。

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<著者紹介>
當眞 嗣乃(東京都八王子市/24歳/男性/機械設計)

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