<第2回応募作品>『深大寺恋物語』著者:Lily

深大寺の桜咲く3月、桜散りゆく3月、俺の愛すべき人がイッた。
彼女はいつも笑っていた。どんな時も、どんなことがあっても。
「ねぇ、りょう」彼女の声がまだ俺の耳元でこだまする。
「ねぇ、りょう」
いつも彼女が言っていた「ねぇ、りょう、ねぇ」

彼女は小柄で少しぽっちゃり目の女の子だった。俺と同じ年で二十五。でも、彼女は幼かった。幼なく見えた。少なくとも、俺には。同業者ではなったが彼女も一応、エンジニアとしてメーカーに勤めていた。

そんな彼女から突然の連絡。うちの母親に。
「りょう、元気? 今どこにいるの?」
「会いたいの。ここに連絡くれるように伝えて。」

約10年ぶりの再会。正直驚いた。
かえでは大学、就職とともに関西に行っていたと聞いていた。そんなかえでが何故俺に・・
怖さ半分、嬉しさ半分で待ち合わせ場所に向かった。
待ち合わせは俺達の地元、調布。

調布駅につくと、かえでが待っていた。
かえでは変わってなかった。一目でわかった。まぁ、幼馴染だっていうのもあるけど。
かえでは俺に気づいて真っ白い手を振った。夏だというのに。
「りょう! 変わってないね!」
オマエもだろーが!!と内心思ったけど、口にはしない。
「元気?」
「うん、りょうは?」
「元気」

普通の会話。
ホントにフツー。
でも、入社3年目の俺には妙に新鮮で、妙に暖かかった。


久々の地元、調布。
一応、デートコースは調べてある。

「おそば食べに行かない?」

彼女はとても素直だった。思ったことをすぐ発するし、悪いと思ったらすぐに謝り、喜び悲しみなどの喜怒哀楽がすぐ表情にでるとても、わかりやすい子だった。まだ子供だったころ、よく感情が表情に出すぎて、喧嘩したことさえある。でも、とても良い子だった。

「別にいいよ。」
折角考えたデートコースも台無しだ。と心の中でつぶやいたが、かえでが行きたいのなら別にいいやと思った。こいつの意見にはよく振り回されてきたし・・・違うな。こいつの行きたいとこなら、俺も行きたいから。


おそばは、昔からある玉乃屋。俺の考えたデートコースの神代植物公園の裏手だし。でも、小さい頃から調布にいるけど、ここには一度も入ったことなかったな。地元なだけに、家が近いからそばは帰って食べるから。

俺達はちょっとお昼には早かったのか、店の中の席へ通された。
かえでとこんな風に外食するなんて、想像もできなかった。

「ねぇ、りょう、何にする?」
「俺、山掛けそば。」
「じゃぁ、あたしも。」

相変わらず、自分で決められない性格だな。かえでは変わらない。俺は、笑った。

腹も満足したし、散歩がてら、深大寺をぐるり一周、そして神代植物公園にきた。ちょうどバラが見ごろを終えていた。もう夏だしな。
そのおかげか人も少なく、ゆっくりと散歩できた。見ごろを終えたといっても、まだバラの香が漂っている。残り香とでもいうのか。

かえでは、基本的に家にいるのが好きな方だ。俺は、そんな彼女をよく連れ出していた。あの頃は彼氏彼女に敏感な時期だったはずなのに、俺達はそんなの関係なしによく二人で遊びに行っていた。親同士が仲が良いというのもあるけど。特にこの深大寺周辺にはよくきた。彼女は自然が大好きだった。植物園もお寺も、そばも彼女は大好きだった。彼女はここにくるととても元気になる。彼女は体が弱いので、遠出は無理だからという理由もあるが、ここで二人とも大満足だった。

日も暮れ、別れの時間が近づいた。
今日一日でかえでに魅せられていた。
また、かえでとこうしてぶらぶら出来るだろうか。

会っている間、俺は彼女に今どこで、何をしているのか聞けなかった。というよりも、聞きたくなかった。せめて、この時間だけは昔のように居たいと思って。でも、別れが近づくとやはり聞きたい。今、どこにいて、何をして、そして、また会えるか。

「それじゃ、りょう、今日はありがと。」
「りょう・・・?どうかした?」

あの頃のかえでが俺を見ていた。

「オマエ、今どこに住んでんの?働いてんの?」

かえでが呆然と立ち尽くす。俺、なんか変なこと言っちまった?

「あれ?おばちゃんから、聞いてないの?私、今川崎にいるの。ちゃんと働いてるよ。」

「そう。。」
絶句してしまった。母親め。そんなこと一言も言ってなかったぞ。
落ち着きを取り戻して、俺は言った。

「なぁ、また会わねぇ?」


かえでが笑みを浮かべた。どういうこと?
かえではかばんをゴソゴソとしだして、携帯を取り出した。
「じゃぁ、番号教えて。」

それから、俺達は何度か会い、付き合いだした。会うところは調布、彼女の家など、様々だ。
かえでは仕事が忙しいらしく、家にはほとんどいない。彼女が働く土日があれば、ふたりで一緒に過ごす土日もある。


彼女はよく泣く女性だった。寂しいといっては泣き、テレビのドラマ、映画、漫画、小説、ありとあらゆるものに感動し、よく涙を流してた。俺は、そんな彼女の涙を拭いてやる男でいたいと思っていた。彼女が泣くときにそばにいるのは、この俺だと思っていた。

そんな彼女にはもう逢えない。今、こんなに逢いたいのに逢えない。


年が明けて、俺は一級建築士の資格を取るために勉強を始めた。
今の仕事は、建築家の補佐的な仕事。正直、給料も今の生活には問題ない。だが、かえでとの将来を考えて資格を取ろうと思いたった。

「俺、資格取ろうと思って。」
「え?なんのために?」

「お前との将来のため。」

「そんなことしなくていいよ」
子供をなだめるような、温かみのあるしゃべり方で言った。
「だって、会える時間少なくなっちゃう」

正直、何でかわからなかった。会える時間が多少少なくなろうと、かえでなら快諾し、応援してくれると思っていた。

長い沈黙のあと、最後の言葉を発した。
「俺の好きなことをやらせてくれよ。」

「わかったよ。頑張ってね。」
彼女は笑顔で理解を示した。
彼女はどんな気持ちだったのだろう。


その後、彼女とは、最近は1ヶ月に1回会えばいいほうだった。俺は、資格試験の勉強に加え、フットサルのチームに入っていたり、バイクに夢中になっていたため、平日の夜も予定があることが多く、更に、彼女と逢う回数が激減した。

俺が、色々なことに夢中になっている間、彼女は何を考えていたのだろう?
大切にしていると思っていた自分がバカだったのかも知れない。
大切なものは、いつもなくなってから気づく。

そんな生活を続けていた3月24日。突然、母親から電話があった。
「りょう、今すぐ家へ帰ってらっしゃい。」
「はぁ??何で?」

「かえでちゃんが、亡くなったわ。」
俺は、絶句した。なんで?その言葉が、頭の中を回りっていた。実家に帰る途中の景色も、遠くに見える深大寺も、自分がどうやって切符を買ったのかすら覚えていない。

かえでとのことを考えていた。
そういえば、会ったのは3週間前だったっけ。最近は、メールばっかりだったもんな。
電話はいつしたっけ?

大切にしていると思ってた。ずっと隣で笑って欲しいと思ってた。ずっと彼女を見ていたいと思ってた。


家に帰るともうかえではいなかった。
家に挨拶に来ていたかえでの母親が言った。
「りょうくん、ありがとう。かえで、こっちに帰ってきて毎日とても楽しそうだったわ。」

葬儀は翌日行われた。俺も参列した。
かえでの葬儀らしく、祭壇が花と緑にあふれていた。
きっと、大好きな調布の土地に帰っていくんだなと思いながら、送った。


資格を取ったら、プロポーズするつもりだった。
俺は彼女を愛している。そう、いまでも。だが、もう逢えない。
彼女は俺に愛をくれた。彼女はいつもそばにいた。よく、電話もくれるし、いつも俺を心配してた。俺は彼女に変なやきもちを焼くし、いざというとき、そばにいてやれなかった。

彼女は俺の名前を呼んだだろうか?

今、何をいっても伝わらないし、伝えられない。彼女の占めていた部分がこんなにも大きかったとは。俺はこの先どうなるだろう。


後で母親に聞いた話だが、かえでは俺達が再会した夏、もう長く生きられないことをわかっていたそうだ。だから、どうしても俺に逢いたいと母親に言ったそうだ。自分のことを一番良く知ってる俺に。小さい頃からずっと好きだった俺に。
再開の場所を決めたのはかえでだった。昔よく遊んだ調布で、縁結びの寺である深大寺。
彼女はそういえば、お寺に祈ってたな。

「何祈ってるの?」
「秘密! 叶ったら、教えてあげる」

「りょうは?」
「俺?」

「俺も叶ったら、教える」
「叶うといいね。」
最後の言葉が少し、弱弱しかったのを覚えている。

1ヶ月後、かえでから手紙が来た。
たった一行の文章なのに、きちんと封書で送られてきた。
「叶わなかったけど、教えてあげる。
"ずっと、りょうと一緒に居たいです"って祈ったの。」


手紙の消印は、3月23日だった。

俺は、こう祈ったんだよ。
「かえでと一緒に居たい」って。

これから、彼女に逢いに行こう。

(了)
 
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<著者紹介>
Lily(東京都/26歳/女性)

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