<第1回応募作品>『ぷれぜんと』

 あー、むかつく!
 都立高校の合格発表のあった日の夜だ。あいつ、何てメールしてきたと思う?
「今度の土曜、ヒマ?付き合ってよ」
 デート?
 そんなんじゃないって。あいつなんて別にどーでもいい存在だ。ただ、近所ってだけ。小学校6年間と中学3年間、たまたまずっと一緒のクラスだったけど。もっとさかのぼれば、幼稚園も同じ。そりゃ長いけど、そう、腐れ縁とかいうやつ。嫌だ、嫌だ。
「ある人にプレゼントしようと思ってるんだけど、何を贈ったらいいか分からないから、選ぶの手伝って」
 ある人?
 何それ?
 好きな子ってこと?
 いっちょまえに色気づきやがって。プレゼントだと?
「相手は誰? 同じ学年? 何組? アタシの知ってる子?」
メールであまりにしつこく訊ねたので、あいつは逆ギレした。
「誰だっていいだろ」
 誰でもよくないだろ。卒業を前にして、片想いだった子に贈るつもりだろうか。そこでアタシに助けを求めにきた。普通、そういうこと、別の女の子に頼むかよ。
「アクセサリーなんかがいいんじゃないの?
でも、アタシの意見、参考にならないよ」
「いいんだよ。お前だって一応、同じ女だろ」
 一応、は余計だろ。なんでアタシがあいつの恋の手助けをしなきゃいけないんだ。けど断ったら、やきもちを妬いているんじゃないかって思われるのが癪だから、こう返信した。
「しょうがないから付き合ってやる。その代わり、メシおごれ」
 送信してから失敗したと悟った。案の定、食い気に対して、ツッコミを入れられた。

 土曜は渋谷で待ち合わせた。近所なんだから一緒に行けば、せめて地元の調布からでもいいと思うかもしれないが、そうはいかない。クラスメートの誰かに見られでもしたら大変だ。
 よく考えてみたら、あいつと二人きりになるなんて、中学に入って初めてかも。小さい頃はよく一緒に遊んだし、よく泣かした。アタシがあいつを泣かしたっていう意味。だって、あいつ、ウジウジしているから、ついキツイこと言ったり、蹴りとか入れたくなるんだよね。ま、昔のことは水に流してって言いたいけど、今でも根に持っているんだろうな。掃除当番の時、ほうきでゴミをアタシに向かって掃いてくる嫌がらせをするくらいだから。
 モヤイの前で待っていたら、いきなり背後からダッフルコートのフードをかぶせられた。やりやがったな。せっかくの髪型が台無しじゃんか。アタシは思いっきり睨み返した。からかうようにしてあいつは覗き込んできた。
「お前って、よく見ると可愛いな」
 えっ......。
「化粧がうまいんだな。てゆうか、化粧、濃くない?」
 余計なお世話だ。まったく頭に来る奴だ!

 春休み前なのに、渋谷は賑やかだった。いつもそうなんだろう。マルキューへ入ろうとして、あいつは躊躇した。恥ずかしいのだ。実はアタシもマルキューは初めて。でも、女の子の定番といえばココでしょ......たぶん。
 あいつはいちいち意見を訊いてくるのだが、アタシの反応がイマイチだったからだろう、なかなか選べずにいた。はっきり言って、アタシ、あんまり興味ないんだよね、アクセサリーとかって。
 スペイン坂でも決められず、あいつは原宿へ行こうと言い出した。アタシはお腹が空いて、仕方がなかった。しかし、乙女としては口が裂けても言えない。か弱いフリしてみた。
「アタシ、もう歩けない」
「なんだ、もう腹減ったのか」
 なんでズバリ言い当てるんだ。あいつは懐石料理なんて年寄りくさい、失礼、高級そうなお店へ入ろうとした。あいつなりのサービスのつもりだったのだろうけど、アタシは慌ててマックでいいと引き止めた。プライドが許さないのか、イタめし屋になったんだけど。
「お前、北高に決めたんだろ」
「近所だからね。ぎりぎりまで寝ていられるし。それにしても、またあんたと一緒だよ」
「俺、私立へ行くことにしたんだ」
 初耳だった。合格発表の時、お互いの受験番号を見つけて喜んだのに。
「残念だな。からかう相手がいなくなって」
「こっちだって、もうこんな厄介なことに巻き込まれなくて済むと思うと、せいせいする」
 そっか......別れ別れになっちゃうのか。そうしたら、あいつは言った。
「別に永遠の別れってわけじゃないしな」

 昼飯後、再びあいつは買い物の続きをした。
アタシはうわの空だったので、あいつが怒っていることに気づかなかった。
「どっちがいいか、決めろよ」
 アタシはキレた。
「なんで、アタシが決めなきゃいけないのよ。アタシは関係ないでしょ!」
 アタシはお店の前で、お客や通行人が見ているのも構わず怒鳴り散らしていた。
「第一、プレゼントする前に、相手に気持ち伝えたらどうなの!」
「できるわけねえだろ」
「どして?」
「......いいんだよ。ただ、俺のこと、ちょっとでも覚えてくれていたらと思って」
「分かんない。全然、分かんない」
「分かってたまるか」
「女の子はモノより気持ちの方がずっとずっと嬉しいの!」
 いきなり周囲から拍手が起こった。ギャラリーの野次馬たちが一斉に手を叩いていた。アタシは顔から火が噴き出るような思いで、一目散に逃げ出した。走って、走って、走った。が、その腕を掴まれた。あいつだった。あいつの握りしめる力は強く痛かった。
「悪かったよ。お前にこんなこと頼んじゃって。もう帰ろう」
 アタシは何も言えなかった。

 調布の駅に着くまでアタシたちはずっと無言だった。改札を出て、バスで帰ろうと思っていたアタシに、あいつは自分のチャリンコの荷台を示した。いつもなら、憎まれ口でも叩いて何か言い返すアタシだが、おとなしく従った。でも、やっぱりアタシはアタシ。二人乗りったって、普通の乗り方じゃない。後ろ向きだ。
「女らしく横坐りしろとは言わないけど、フツー、そんな乗り方するか?」
「だって、疲れたから、背もたれがほしい」
 アタシはあいつの背中に寄りかかった。
「それとも、腰に手を回してほしかった?」
「バ〜カ」
 あいつは御塔坂をいっきに駆け上ろうとした。アタシはバランスを崩し、荷台から飛び降りた。あわやひっくり返るところだった。
「それがレディに対する仕打ち?」
「だから、ちゃんと坐れって言っただろ」
 しょうがなくチャリンコを押して、アタシたちは歩いた。
「このまままっすぐ行くと北高だな」
「あんたはこの道を下って、通学するんだね。アタシと正反対」
 深大寺入口の信号まで来た時、気づいた。
「ねえ、ちょっと寄っていこうよ」

 深大寺はちょうどだるま市で、屋台の並ぶ境内はものすごい数の人と威勢のいい声で熱気に包まれていた。アタシはもみくちゃにされ、あいつの姿を見失った。見回してもどこにもいない。焦った。そして、心細くなった。思わずあいつの名前を叫んでいた。するといきなり、目の前にチョコバナナとあんず飴とタコ焼きが差し出された。あいつはアタシの気持ちなんか知らずに抜かしやがった。
「そろそろエサの時間だと思って。あれ、食べないのか?」
 もちろん食べるさ。現金な奴だ、アタシは。
「だるまは買わないの?」
「受験が終わったら、必要ねえよ」
「恋愛成就祈願ってのもあるよ」
 アタシの目に入ってきたのは、ピンクとブルーの小さなだるまのセットだった。
「これ、これ、これにしなよ、プレゼント」
「こんなのが? この色、気持ち悪いぞ」
「カワイイじゃん。絶対、いいって。ピンクのだるま、もらったらきっと嬉しいよ」
「そうかな......」
 気乗りしないあいつを見て、アタシは気づいた。これはアタシがもらうんじゃない。
「そうだね......アタシはカワイイと思っても、その子は気に入らないかも......」
 アタシとあいつは植物公園の前で別れた。
「じゃあね」
「じゃあな」
 いつもと同じ挨拶。でも、これが最後の挨拶かもしれない。

 家に帰ると、アタシはぐったりとベッドに倒れ込んだ。
「痛ッ」
 首の付け根に何か当たった。ダッフルコートのフードの中だ。また、あいつの悪戯か?
「......!」
 アタシはそれを手にしたまま、じっと見つめていた。何だよ、あいつ。何なんだよ、あいつ。アタシは怒っているのに、笑顔を作り、しかも涙までこぼしていた。忙しいやつだ。
 アタシの手の中にあるのは、小さなピンクのだるま。





<著者紹介>
(東京都調布市/34歳/男性/脚本家)

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